あくまでシリアスに真面目にやって、結果的にそれが笑いにつながれば。
「真剣に考えて一生懸命にやったけれど、やっぱり『虎に翼』に出たときにすごい俳優さんたちを目の当たりにして。(伊藤)沙莉さんも滝藤(賢一)さんも、皆さん素敵なのはもちろんなんですけど、なんというか、この職業に並々ならぬ誇りを持っていると感じて。当たり前といえば当たり前なんですけど、僕ははたしてどうだろうかと反芻する時間が多かったので、役者としての自信や信念を身につけて、自分を誇れるようになりたいと思っています」
子供の頃に歌舞伎教室に通い、人前に立つのが好きだったという名村さん。大学在学中、卒業後の進路を考えていたときに当時を思い出して、この世界に舵を切ったという。
「たまたま倉本聰さんの富良野塾のワークショップの存在を知って受けたんですが、そこでめちゃくちゃ怒られたんです。その頃は20歳そこそこでちょっとカッコつけてたんです。でもそれがあってちゃんとやりたいって本気になれたと思っています」
いまや自分で劇団を立ち上げ、作・演出まで手がけるように。そんな名村さんの次回作は、気鋭の作・演出家の國吉咲貴(くによし・さき)さん率いる、くによし組の舞台『ケレン・ヘラー』。“笑い”を追求するあまりコンプライアンスの壁を越え、常軌を逸した方向へ突き進む芸人・アフロ子の物語。
「きっとこの舞台を観て、ものすごく笑う人と全然笑わない人とに分かれるんだろうなと思います。僕は、最初に台本を読んで笑ってしまった側。國吉さんの書くセリフが一行一行面白いし、俳優さんも面白い方々がひしめき合っています。ただ僕はウケを取りにいくと大抵スベるので、あくまでシリアスに、笑いを狙わず真面目にやって、結果的にそれが誰かにとっての笑いにつながれば」
名村さんが演じるのは悪アフロ子。アフロ子の笑いがどんどん過激化していった末のキャラクターだ。
「アフロ子の独善的な部分は、僕も似たところがあって結構共感できました。そういうポイントを大事に演じていきたいです。また冒頭で僕は“役者1”という役でも登場するんですけれど、2024年を生きる27歳の僕自身が悪アフロ子をやるということに意味が生まれたらいいなと思っていて。それが作品としていい方向にいけば一番理想的ですよね」
PROFILE プロフィール
名村 辰
なむら・しん 1997年3月3日生まれ、東京都出身。近年の主な出演作に、ドラマ『虎に翼』『全領域異常解決室』、映画『アキラとあきら』、舞台『雨とベンツと国道と私』など。今年、自身の作・演出で舞台『地獄は四角い』を上演。
INFORMATION インフォメーション
シアタートラム・ネクストジェネレーションvol.16 ―演劇― くによし組『ケレン・ヘラー』
ヘレン・ケラーを題材にしたネタで炎上し、事務所に自宅謹慎を言い渡されたアフロ子(中井)。過激化してゆく相方をケイト(大場)は危惧するが…。12月19日(木)~22日(日) 三軒茶屋・シアタートラム 作・演出/國吉咲貴 出演/中井千聖、名村辰、大場みなみ、永井一信ほか 一般4000円ほか 世田谷パブリックシアターチケットセンター TEL:03・5432・1515(10:00~19:00) 撮影:阪野貴也