現代美術のアーティスト、渡辺志桜里さんの代表作《Sans room》は、生きた生態系をそのまま展示する。水槽の中で水生植物や魚、微生物が織りなす生態系はまるで大きなアクアリウムのようだ。


【渡辺志桜里 宿/Syuku】気鋭のアーティストが見つめる、生物と人間の摩擦を乗り越えた世界。

《Sans room》 2017~ インスタレーション バクテリア、ブルーギル、水、野菜、チューブ、ほか
2017年に始まった水の循環により生態系を維持するプロジェクト。当初は皇居の濠の水や水生生物などで構成。現在は雨水、魚、固定種の野菜に変化を遂げている。

「エコロジー(生態学)はコンテンポラリーアートでは重要なトピック。世界中の多くのアーティストが自然と人間の共存をテーマにした作品を手掛けていますが、このように生態系をシステム化して作品にするというのは新しい手法です」

と資生堂ギャラリー・キュレーターの及川昌樹さん。タイトルにある“Sans”とは、sun(太陽)、sang(仏語で血)、saint(聖なる)を合わせた造語だというが、ライトは日光、循環する水は血液を指すのだろうか。電力で動く維持装置が止まらなければ、半永久的に持続する小さな生態系を見つめていると、確かに尊いサンクチュアリのように見えてくる。

「会場では、水槽と水槽の間にホースをめぐらせ、2フロアにわたる大小2つの展示室をつないで展開します。ギャラリーの空間全体に水やバクテリアの循環が生まれ、来場者がその中に入り込むような展示になる予定です」

この展示が自然との対峙というより一体感のようなものを呼び起こすとすれば、映像インスタレーションとして発表される新作能の世界観には、それをより一層発展させた視点が表れているかもしれない。

本展のタイトル「宿」という漢字には一時的にその場にとどまる「宿る」という意味がある。渡辺さんはこの「宿る」という感覚に日本古来の自然観、死生観を見出しており、能にはそれが色濃く表れているのではないかという。能の主人公の多くは幽霊、精霊、神々など人外の存在だが、演者の体にそれらが「宿り」、舞う能舞台の上に自然と神々、人間の共生する姿を見出そうとしている。

「環境問題、自然災害、パンデミック、移民など地球規模の問題が渦巻く現代を生きる私たちにどんな示唆を与えてくれるのか。注目される若手作家の重要な個展です。ぜひ足を運んでみてください」

【生物と人間の葛藤をテーマにした過去の作品】

《RED》 2024 映像インスタレーション(マルチチャンネル) photo by 小川尚寛
「百年後芸術祭―いちかわ芸術祭」(2024)の展示風景。絶滅危惧種のトキの骨格標本、映像インスタレーションを展開。

《BLUE》 2024 映像インスタレーション(マルチチャンネル) Photo by ART iT
《RED》の対になる作品として制作された《BLUE》は、特定外来生物に指定されているブルーギルがテーマ。個展「BLUE」(2024)の展示風景。

「とうとうたらり たらりらたらり あがりららりとう」展 2023 プロジェクト主催、企画 photo by Naoki Takehisa
能の最古の演目『翁』を題材にしたプロジェクトで、キュレーションを担当。翁はあの世とこの世をつなぐ存在とされている。

Information

渡辺志桜里 宿/Syuku

資生堂ギャラリー 東京都中央区銀座8‐8‐3 東京銀座資生堂ビルB1 開催中~12月26日(木)11時~19時(日・祝日~18時) 月曜休 無料 TEL:03・3572・3901

取材、文・松本あかね

anan 2422号(2024年11月13日発売)より

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