
2017年のCDデビューより着実にリスナーを獲得し、近年は海外でも人気が高まるスリーピースバンド、羊文学。ジャパンエンタメの未来を牽引し、世界からその音楽が待ち望まれる彼女たちの考える日本語ロックの魅力、守りたい“羊文学”らしさ、そしてジャパンエンタメの原点とは。
胸の奥の陰りに静かに寄り添うような音楽で、多くのファンを惹きつける羊文学。世界で躍進する彼女たちがこれまでに影響を受けた音楽体験を起点に、インタビューはスタートした。
―近年、活躍の場が世界へと広がっていますね。
塩塚 ありがとうございます。実はこれまで海外のチャートにランクインしたと聞いても、それがどういうことなのかいまいちわかってなくて。いろんな国でライブができるようになって、海外の方が私たちの曲を口ずさんでいる光景を見たとき、ようやく実感が湧いてきたというか。河西 日本語に馴染みのない方が羊文学の歌詞を覚えて一緒に歌ってくれる姿を見ると本当にすごいなって感動します。そういえば、アジアの国でタクシーに乗ると日本の音楽がラジオで流れていることが多いんです。想像以上に日本の音楽が日常で親しまれているんだなと。
―いま世界を魅了する羊文学のおふたりが、どんな音楽を聴いてきたのか知りたいです。
塩塚 本当にいろんな人の影響を受けているんですが、YUIさんやBUMP OF CHICKEN、RADWIMPS、ASIAN KUNG-FU GENERATIONとか。チャットモンチーは学生時代に組んだバンドでコピーもしていました。
河西 私は親が宇多田ヒカルさんが好きだったのでよく聴いていたり、BLANKEY JET CITYはライブがかっこよくてよくDVDを見ていました。Perfumeはずっと好きで、ライブにも行きます。バンドらしい音楽もゲーム音楽のようなエレクトロっぽいポップな楽曲も幅広く聴いてきたかな。
塩塚 バンド活動を続ける中で大きく影響を受けたのは下北沢や渋谷のライブハウスで出会った先輩ミュージシャンたち。そこには他の人と違うことをしようとする面白い人がたくさんいたんです。弾き語りもただ歌うだけじゃなくてエフェクターを使って音を重ねながら、ポップに仕上げたり。そこでいろんなことを吸収した気がします。


漠然とした不安や辛さが言葉とメロディになる。
―海外公演が増えたことで改めて気づいた日本のロック音楽の魅力はありますか?
河西 基本的に日本語で歌うから、メロディが独特かもしれない。英語だったら歌えなそうなものもあるなって思う。
塩塚 たしかに。言葉の詰まり方が違うから音の運びがユニークとはよく言われているよね。これは私の感じ方なんですけど、日本の風景って全体的に淡く青みがかってる感じがするんです。そこに漂うある種の静けさが音楽にも影響を与えているんじゃないかと思ってて。あと、どれだけ働いても将来への漠然とした不安が拭いきれない日本の空気みたいなものが、曲作りにも影響している気がして。北欧のように福祉が整っている国に住んでいたら自分たちが作る音楽も変わってくるのかもって。
―海外ファンが増えたことで曲作りに変化はありますか?
塩塚 私は英語がネイティブじゃないから、歌詞は日本語で書くようにしていたんですけど、ワンフレーズでも英語の歌詞があったほうが外国人の耳に引っ掛かるよと先輩ミュージシャンに言われて、少しずつ挑戦しています。でも、それ以外は変わってないかな。力強くなりすぎると羊文学らしくない気がするから、肩の力が抜けてる感じは大事にしてて。あと、堂々と暗いところ?(笑) たとえば「光るとき」という曲の中に「世界は美しいよ」っていう歌詞があるんですけど、それはポジティブで元気いっぱいな人に向けた言葉ではなくて、生きるか死ぬかギリギリのところにいる人に対して伝えたいというのがあって。私自身、どうやって自分の命を明日まで繋ぐか毎日葛藤してて、そんな部分を隠さず伝えるようにしています。そういう曲って広く表に出ているものがあまりないから、同じような辛さや苦しさを感じている人が私たちの音楽を聴いてくれているのかな。活動の規模が大きくなってきて、いろいろと譲らないといけない部分が増えてきて難しいところはあるんですけど、これからも自分たちの前向きすぎない表現は守っていきたい。
―河西さんには譲れないもの、ありますか?
河西 ん〜。「人間です」っていうことかな。海外に行く機会が増えて偉い人や有名な人に会っても、「同じ人間だぞ」と思う。どこにいても、誰と会ってもそういう感情は大切に。塩塚 あとさ、メディアを通して伝えられるミュージシャンって記号化されがちだけど、音楽を聴いている人も作ってる人も同じ人間だよね。いいところもあれば悪いところもあって、間違いもする。そういうことも忘れずにいたいなって私も思う。
塩塚さんのジャパンエンタメの原点は?
レンタルビデオショップ
中学生のとき、レンタルビデオショップの「5枚1000円」サービスを利用してCDやDVDをよく借りていました。棚の隅にひっそりとある作品が自分にヒットしたりして。サブスクにはない出合い方があったなと感じます。
河西さんのジャパンエンタメの原点は?
ゲームセンター
ゲーム好きの私の原点は町のゲームセンター。父から『パックマン』の攻略方法を教えてもらってずっとやってました。今は簡単に裏技が調べられるけど、当時はなかったから口頭で伝えてもらったのがいい思い出です(笑)。
羊文学
profile

ひつじぶんがく 塩塚モエカ(Vo.、Gt.)、河西ゆりか(Ba.)、フクダヒロア(Dr.)からなるオルタナティブロックバンド。2017年に現在の編成に。'20年メジャーデビュー。今年は2度目のアジアツアー、初となる日本武道館公演も控える。
世界を魅了する羊文学の音楽。
information

楽曲を発表するごとに海外リスナーを魅了
2023年発表の「more than words」などが海外でも人気のテレビアニメのテーマ曲に抜擢され、その名前は世界に。YouTubeやストリーミングサービスのグローバルプレイリストなどを通じて世界中のファンを獲得中。
©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

昨年開催したアジアツアーは大盛況。
バンド初となるアジアツアー「羊文学 Hitsujibungaku ASIA TOUR 2024」は全公演ソールドアウト。さらにシンガポール、クアラルンプール、マニラ、香港の全4都市を回る追加公演も開催し、観客を沸かせた。

ついにアメリカへ。初のUSツアーを開催。
今年4月、サンディエゴを皮切りにロサンゼルス、サンフランシスコ、ポートランドのアメリカ西海岸の4都市を回る初のUSツアー「Hitsujibungaku US West Coast Tour 2025」を完走。本格的にアメリカに進出した。
anan2445号(2025年4月30日発売)より