放送ごとに反響を呼び、話題沸騰中のドラマ『波うららかに、めおと日和』。なぜこんなにも女性たちの心を掴むのか? その魅力を大解剖します。


今、木曜22時になると街中から女性が消えている…? そんなトレンディドラマ全盛期の月9現象を彷彿とさせているドラマが木曜劇場『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)。放送回ごとにファンを増やしているのか『TVer』の番組お気に入り登録者数は約113万人を突破した。もう社会現象だ。

若年層のテレビドラマ離れが叫ばれる昨今にもかかわらず、なぜ多くの人気を得たのかについて、私こと超絶ドラマオタクの小林久乃が理由を推察! 実は自身もリアタイに加えて、週に2~3回作品を見てしまうほど、大ハマり中。そろそろ出演者のセリフを言えるくらいにもになってきた、ファンの視点をお楽しみください。

過ごせる時間は短くても、近づいていく二人の距離

©フジテレビ

まだ作品を知らない方のために、簡単なあらすじをご紹介。

“物語の舞台は昭和11年。当時の慣例として両親の勧めで結婚した、江端なつ美(芳根京子)。夫となった瀧昌(本田響矢)は、真面目で無愛想な帝国海軍の中尉。仕事柄、瀧昌は不在がちで新婚生活もままならず…。ただふたりは一緒にいられるわずかな時間で心を通わせ、互いを想い合う家族となっていく”

江端夫妻は似た者夫婦なのか、ご時世なのか、異性に対して免疫ゼロの人物。現代の恋愛価値観を覆すように、なかなか夫婦らしい距離感に進展しなかった。この呆れるほどの純粋さが、年代を問わず多くの視聴者を惹きつけた理由のひとつ。

例えば、第1話では「旦那様呼びだと、わかりにくい」と、瀧昌の提案で名前呼びを始める。が、ふたりとも異性を名前で呼んだ経験はなく、呼ぶだけで顔を赤らめているような中二病が勃発。さらに第2話でやっと接吻にこぎつくも、緊張と酸欠で倒れてしまうなつ美…。初夜にも半年以上かかってしまう始末。第6話の最終シーンで美しく結ばれたときは、SNS上は今日が大円団かと思うほど、興奮に包まれていた。私もテレビ前で歓喜が止まらず、うっかり祝杯のワインを開けてしまったほど。

本作のようなピュアな距離感の恋愛ドラマは、最近、日本ではあまり放送されていない。対するように深夜帯を中心に不倫、離婚、復讐といった愛憎渦巻く、人間関係がドロドロとしたドラマが増える一方だ。縦型アプリドラマでも、同じような作品が多くラインナップされている。そんな背景を持つドラマ畑に咲いた純情の花(=本作)は新鮮だった。

母娘世代を虜にした昭和初期の純愛

©フジテレビ

『波うららかに、めおと日和』は若年層だけではなく、その親世代にもファンはとても多い。これがヒットの理由、二つめ。SNSのハッシュタグを追っていくと、視聴者には20~30代ばかりではなく、40~50代と見受けられる人たちも多くいる。ちなみに母親世代側の私も、ふだんドラマ話をしない友人たちが話題にしているのをよく聞き、熱い気持ちを綴ったLINEも送られてきた。瀧昌様に夢中な人もいれば、「あんな夫婦になりたかった」と、感想はそれぞれ。いずれにしても、もう二度と味わえない甘酸っぱさを楽しんでいる。

余談だけど、第1話を見ながら妙な既視感を覚えた。記憶を思い返していくと、1987年に発売された『はいからさんが通る』にたどり着く。主人公の花村紅緒が許婚によって、陸軍少尉の伊集院忍と夫婦になる、大正時代が舞台の少女漫画だ。当時の10代にとってはバイブルとなり、アニメ化、映画化、舞台化と大ヒットを重ねて現在も人気を継続している。

当時は『はいからさん~』だけではなく、『りぼん』『ひとみ』『ちゃお』『なかよし』に連載されている、大正や昭和初期をテーマにした漫画がとても多かった。なつ美と瀧昌の夫婦設定もほぼ同じせいか、どうも懐かしさを覚えたらしい。

母親世代視聴者も私と同じで、10代に紙媒体で胸ときめかせたあの気持ちを再び味わっているはず…。

2025年の流行語大賞にしたい! 「問題ありません」

©フジテレビ

最後にこのドラマを盛り上げた理由の三つめとして挙げたいのは、なんといっても「瀧昌さま」! 武骨で気の利いた発言はできないけれど、とにかく誠実。彼を見ていると、人生とはシュガーコートする必要もなく、実直に自分らしく生きればいいと思い知らされる。

「問題ありません」

食事がおいしいとも、妻の仕草が可愛いとも言わずに、全てこの一言で通す瀧昌。そんな夫に慣れていくなつ美。「問題ありません」も、いつの日か江端家の当たり前になりそうだ。

そして演じた本田響矢さんの演技がとても良かった。彼がこれまでたくさんの出演作で活躍されている姿を、何度か深夜にテレビで見かけた。世間では「新人俳優のおぼつかない演技が、カタブツの瀧昌に似合っていた」という評価もあるようだけど、それは違う。

アンチテーゼのような意見になってしまうけれど、瀧昌役は本田さんがデビューしてから約10年間で鍛錬してきた演技力による、真面目な青年の完成像だった。演技の中で私が気になったのは瀧昌のモノローグ。声だけで聴く側が膝を打つほど、キャラクターを表現していた。あの声はポッと出の新人ができるものではない。もし時間があれば動画再生などで気にかけて、モノローグを聞いてみてほしい。

さてドラマは最終章へと進んでいく。江端夫妻はもちろん、ドラマ全体に嫌味な人物が登場せず、毎週癒されていた。6月26日にはこの終わりが来てしまうと思うと、切ない。せめて最終回には瀧昌のなつ実への敬語が完全に崩れて、タメ語になっていますように…と願う。

Profile

小林久乃(こばやし・ひさの)

文筆家、編集者。出版社勤務後、独立。最新刊は超絶ドラマオタクの知識を活かした『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社刊)。現在はエッセイ、コラムの執筆、ラジオトーク、各メディアの構成と編集が主な仕事。

文・小林久乃

Share

  • twitter
  • threads
  • facebook
  • line

Today's Koyomi

今日の暦
2025.6.
25
WED
  • 六曜

    赤口

  • 選日

    天恩日

いつでも自分の思うように行動してその結果が良ければいいのですが、必ずしもそうではないのが人生です。そんなときは周りで起きていることに心を開いてみましょう。自分の殻に閉じこもらず周囲に心を同調させていくと、ふと指針的な直感を得たり、些事にこだわらない気持ちが出てきたりして、やるべきことが見えてきます。

Movie

ムービー

Regulars

連載