『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフ作品の実写映画最新作『岸辺露伴は動かない 懺悔室』で謎の男・田宮を演じる井浦新さん。小学生の頃から原作者・荒木飛呂彦先生の作品を読み続けてきたという井浦さんが、ジョジョ愛と作品について熱く語ってくれました。

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    1986年に週刊少年ジャンプで連載が始まり、今も続く『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦/集英社)は、シリーズ累計で1億2千万部を突破し、世界中に熱狂的なファンが存在しています。

    『岸辺露伴は動かない』は、シリーズ第4部『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』に登場した漫画家・岸辺露伴が主人公のスピンオフ作品。2020年にドラマ化された際には、その完成度の高さから多くの人を魅了。そして、ファンの間で長く映像化が熱望されていた「エピソード#16 懺悔室」がイタリア・ヴェネツィアオールロケで映画化され、5月23日(金)に公開されます。

    本作で、謎の男・田宮を演じたのは井浦新さん。ヴェネツィアの教会にある懺悔室で、過去の過ちを告白する役どころ。小学生の頃から荒木飛呂彦先生の作品を読み続けてきたという井浦さんが、ジョジョ愛と作品について熱く語ってくれました。

    井浦さんの心を掴んだ、荒木ワールドの魅力

    ── ジョジョとの出合いがいつだったか、覚えていますか?

    『ジョジョの奇妙な冒険』より前の連載『バオー来訪者』で、少年・井浦新は心を掴まれました。だから、ジョジョは連載開始からずっと読んできたという、すごくラッキーな人間です。

    物語は、全編を通してジョースター家と宿敵・ディオの運命の物語がベースにあるということもあり、僕はすべての始まりである第1部「ファントムブラッド」への思い入れが強くあります。ジョースター家の証である星形のアザを見ただけでぐっときますし、その積み重ねで今に至っています。

    ── 荒木作品の魅力を井浦さんはどういう部分に感じていますか?

    荒木先生の作品作りのすごいところは、これだけ長く連載が続いているのに、核となる部分はずっと変わらないところです。

    主人公が最後には勝ち、悪がやられるというようなお約束はありません。善と悪というものさえも崩壊し、悪と思っていなくても悪になってしまったり、正義と思っていなくても正義になってしまったり、逆に正義だと思っていたら悪になってしまったりとか…。お決まりの世界観に縛られることなく、複雑な人間模様を描き出しています。

    ── 40年近く続いているジョジョを愛読していると、変化や進化も感じられるのではないでしょうか?

    作品の精神性が変わらない一方で、漫画の見せ方や絵のタッチなどは、荒木先生の心の動きのままに変わっていくいうところもすごいなと思います。例えば第4部「ダイヤモンドは砕けない」で登場した岸辺露伴を見ても、第4部からスピンオフになった頃、そして今と、どんどん変わっているし、若返っているようにも見えます。

    ジョジョには古くからのファンがたくさんいますが、画風や作風を変えていったとしても、古いファンがついていけなくなってしまうことを恐れていない姿勢も素晴らしいと思います。ずっと同じようでいて、変化し、変容していくジョジョを楽しんでいます。

    ── 井浦さんはジョジョからさまざまな影響を受け、今も読み続けているということですが、特に大きな影響を受けたのはどのようなところですか?

    僕が小学生だったころは、全ての物語にヒーローと悪がいて、ヒーローがピンチになりながらも勝っていく、悪が勝つことはない物語が基本でしたが、それをまず軽く裏切ってくれたことが、小学生ながらにすごく強烈でした。

    例えば第1部は、ジョナサン・ジョースターとディオ・ブランドーの2人の物語ですが、悪であるディオをしっかり描き、ディオの考えや生き方が明らかになっているからこそ、単純な善悪ではなく、お互いの生き方のぶつかり合いになっています。

    ドラマや映画、アニメ、漫画など、何を見たとしても、作品の中のヴィランに目がいってしまうようになったのは、間違いなくディオの影響。絶対悪だからこその生き様や美しさ、生きる理由など、普通だったら描かれない部分を荒木先生が描いてくれたからこそ見えてくるんです。それは、僕が悪役をどう演じるかを考える時にも生きてきています。荒木先生の作品を幼い時からずっと読み続けてきて、そんな感性を育ててもらった気がしています。

    好きだからこその不安

    ── 『岸辺露伴は動かない』のドラマシリーズや2023年に公開された映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』を観ていて、ご自分も出演してみたい、と思っていましたか?

    自分が俳優をしているからといって、簡単に自分も出たい!なんて思えないんですよ。本当に好きだと恐れ多くて触れられないというか…。“推し活” と同じですね。だから、今回の映画でオファーが来た時は、すごくうれしいけど、あの聖域に自分がちゃんと入っていけるのか、という不安はありました。

    ── 井浦さん演じる謎の男・田宮は、原作の「エピソード#16 懺悔室」ではわずかしか登場しないキャラクターです。原作に手がかりが少ない中、どのような役作りをされましたか?

    僕はジョジョより前の『魔少年ビーティー』、『バオー来訪者』、『ゴージャス☆アイリン』などの初期作品から読んでいて、大きな影響を受けながら育ってきました。荒木先生はどの作品でも、生きることを諦めない姿勢、時には歪んで禍々しかったとしても、誰かを想う気持ち、自分への執着の強さなど、さまざまなことをいろんな角度から見せてくれました。

    ©︎2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

    人間らしさは一つだけではないし、正解もない。偏っていたり、情けなかったり。決してかっこいいだけじゃない部分も描かれていて、そうしたものが荒木先生の作品のテーマである “人間讃歌” につながっていると思うんです。

    だから、僕が演じた田宮という男は、原作では本当に少ししか書かれてないですけれど、彼が娘をどんな思いで見つめているのか、娘のことは何よりも大切だけれども、自分の命と天秤にかけた時にどういう表情をするのだろうか、といったことは、今まで僕が荒木先生の作品から受けてきた影響から醸し出していく感じで形作ることができたような気がします。

    ── 今回、ドラマや映画を作り続けてきた、高橋一生さんを中心としたチームに新たなメンバーとして加わりましたが、参加されてみていかがでしたか?

    今回、みなさんとは初共演だったので、どのシーンも新鮮で、真新しい気持ちでお芝居できました。ドラマがスタートした2020年から5年間かけて作り上げていったチームは、今やファミリーになっていますから、どうやったら自分も一緒にやっていけるだろうかという不安はありましたが、ありがたいことに一生くんをはじめとしたみなさんが受け入れてくれる状態を作ってくださったので、スムーズに入って行けましたし、居心地もよかったです。それに、ジョジョへの愛が深い人たちが集まっているので、一体感を作っていけたとも感じました。

    ©︎2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

    ── 現場では、ジョジョ愛の強いキャストやスタッフと話が盛り上がったりしたのでしょうか?

    一生くんもジョジョ好きで知られていますが、ジョジョについて語り合ったわけではありません。みんな本当にジョジョが好きだからこそ、話をしないんですよ。自分がどれだけジョジョ好きかを自慢しても何も生まれないことをわかっていて、節度がある。少し言葉を交わしただけで、みなさんが本当にジョジョ好きだということはしっかり伝わってきました。

    “聖地巡礼” で得た、新たな気づき

    ── ロケ地となったヴェネツィアは第5部「黄金の風」の舞台でもありましたね。

    ヴェネツィア滞在中に第5部を読み返していたので、僕の中で第5部がいきなりアツくなりました。ブチャラティが死闘を繰り広げたサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会、ギアッチョがジョルノたちを追跡してきた、イタリア本土とヴェネツィアを結ぶリベルタ橋やヴェネツィア・サンタ・ルチア駅などの “聖地巡礼” もしました。

    ©︎2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

    ── 数々の名場面の舞台となった場所に足を運んでみて、いかがでしたか?

    実際に足を運んでみると、その場面と全く一緒ではないところがあることに気づきました。ちゃんと現地を取材されて描いている部分と、荒木先生の空想から描かれた部分があったんです。先生の脳内で変換されてあの場面になったのか、ということがわかって、すごく面白かったですね。すごく幸せな時間でもありました。

    ── 最後に、これから本作を観る読者にメッセージをお願いします。

    ここまで散々、荒木先生とジョジョについて語ってしまいましたが、荒木先生やジョジョを知らない人たちも、先入観なくこの作品を観ていただけると思います。全編ヴェネツィアロケなので、国内の映画館に居ながらにして、ヴェネツィアを旅したような気分を味わえるはずです。あとは、菊地成孔さんの音楽も素晴らしいです! 映画館の大画面で、大きな音で、旅をするようにこの作品を楽しんでください。

    profile

    井浦新

    いうら・あらた 1974年9月15日生まれ、東京都出身。1998年、映画「ワンダフルライフ」に初主演。以降映画を中心にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。また映画館を応援する「MINI THEATER PARK」、アパレルブランド〈ELNEST CREATIVE ACTIVITY〉ディレクター、サステナブル・コスメブランド〈Kruhi〉のファウンダーを務めるなど、その活動は多岐にわたる。

    information

    ©︎2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

    『岸辺露伴は動かない  懺悔室』

    人気漫画家の岸辺露伴はベネツィアの教会で、仮面をかぶった男の恐ろしい懺悔を聞く。それは、かつて誤って浮浪者を殺した男がかけられた「幸せの絶頂を迎えた時に“絶望”を味わう」という呪いについての告白だった。そんな男の奇妙な運命にのめりこむ露伴は、相手の心や記憶を本にして読む特殊能力「ヘブンズ・ドアー」を使用するが、やがて自身にも呪いが襲いかかっていることに気づく──。

    監督/渡辺一貴、原作/荒木飛呂彦「岸辺露伴は動かない」(集英社)、出演/高橋一生、飯豊まりえ/玉城ティナ、戸次重幸、大東駿介/井浦新

    2025年5月23日(金)ロードショー

    写真・鳥羽田幹太 インタビュー、文・吉川明子

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