やっと自分が自分に戻ってこれた気がします。
「この2年ほどで『悪魔の子』を通じてたくさんの方に聴いていただく機会が増えました。私が掲げていた『1曲でもいいから売れてほしい』という夢が叶ってしまったけど、それでもまだ歌いたいと思ってる自分の気持ちをどう消化すればいいんだろうと悩んだ時期がありました。『大航海』は、このまま終わっていいのか? と自分に問いかけている曲です」
「悪魔の子」が世界的なヒットを続けている中で、嬉しい半面、自分に対する違和感を抱いていたという。
「幼い頃から自分は良い子でいなきゃいけないみたいな変な責任感があったからか、曲をたくさんの人に聴いてもらっている状況に対しても『ちゃんとしなきゃ、好きでいてもらわなきゃ』みたいな気持ちが強くなって、どこかカッコつけていて。それが辛かったんです。この曲が書けたことで、やっと自分が自分に戻ってこれた気がしています」
一方、最近では自身の個性的なパーソナリティを活かしたバラエティ番組への出演や、元カレとの思い出エピソードをまとめた「元カレかるた」の発売も話題に。
「人前で面白おかしく喋ってみんなを笑わせるようなことは本来あんまり得意じゃないんですけど。自分の日常や付き合ってきた彼氏が面白いという自負はあります(笑)。例えば『元カレかるた』を手にしてくれた人が、同じ経験じゃなくても、過去に愛されていた記憶だったり、当時はムカついていたけど今は許せるなとか、何かを思い出してくれたらいいなと思います。結局、私がやっていることは音楽でもテレビでもかるたでも全部繋がっているんです。私から投げかける疑問や題材から、人それぞれに自分なりの答えを探してもらえたら。結局人は、自分で見つけた答えしか信じられないし、大切にできないと思うので」
今回のアルバムにはテレビ東京系ドラマ『初恋、ざらり』のエンディングテーマ「恋の色」や、映画『その恋、自販機で買えますか?』の主題歌「自販機の恋」など数々のタイアップ曲も収録。タイトルの『未成線上』にはこんな想いを込めた。
「『未成線』という言葉は、未完成の鉄道線路を意味します。電車を走らせる予定が、何かの事情で使われず終点の先に残っていたりするような幻の線路。ひとつのゴールを切っても、その先でまだ生きていかなきゃいけない私を重ねています」
彼女はこれから『未成線上』を走っていく。誠実に真摯に音楽と自分と、そして受け手に向き合い続ける。
「背負うものがあるからこそ私は音楽をやっていると思うので、曲がヒットしても肩の荷が下りるようなことはないですね。荷物があるから、歩き続けられる。それは自分自身の重さじゃなくて、色んな人から貰った責任みたいなものを背負って歩いている道だからだと思うんです」
最後に「2024年にしたいことは?」と聞くと、こんな答えが。
「サッカーが好きなのでイギリスに行ってプレミアリーグをたくさん観たいですね。サッカーを観ている時は色んなことを忘れられます(笑)」
5th Album『未成線上』。愛されたいけど自分らしくいたい気持ちをポップに歌う「わがまま」など、全11曲。同名のライブツアーも。【初回限定盤(CD+BD)】¥6,600 【通常盤(CD)】¥3,300(ポニーキャニオン)
ヒグチアイ 平成元年生まれのシンガーソングライター。2歳からピアノを習い、18歳より鍵盤弾き語りで活動を開始。2016年、アルバム『百六十度』でメジャーデビュー。気迫に満ちたライブと説得力のある歌世界が魅力。
※『anan』2024年1月31日号より。写真・森川英里 取材、文・上野三樹
(by anan編集部)