「自分はちょっと変かもしれない」
心が不安定なときほど、大なり小なりそう感じてしまうことがある。著者の水谷さんが精神科の現場に興味を持ったのは、主人公と同様、身内を亡くし、心のバランスを崩してしまったことがきっかけだった。
「患者さんが特定されないようにフィクションの体裁をとっていますが、基本的にはすべて実際にあったこと。取材をするなかで自分が感じたことを、そのまま描きました」
電車内でマナーの悪い中年男性に、衝動的に肘鉄を食らわせてしまった主人公は、OLを辞めて精神科のナースに。さまざまな患者や医師、先輩看護師などと接しながら、人はなぜ心の病にかかるのか、それらにどう対処すべきかを自分なりに探っていく。たとえばリストカットの常習者は、誰かにかまわれたいのだと思われがちだが、ある患者にとっては生きていることを実感するための行為なのだと知る。どんなに理解不能と思われる言動にも、その人なりの理由やルールが存在するのだ。
「ある看護師さんから『悩んでいる友だちがいたら、薬を渡すのではなく、まず話を聞きますよね?』と言われて、その通りだなあって。これは精神科を紹介する本ではないので、人との関わりを通して病気がよくなっていく過程を描きたいと思いました。薬に頼っても限界があるし、最後は自分の力で立ち上がるしかない。その部分を知りたかったんです」
なかには患者に寄り添いすぎて、自らが精神科に通院するようになる看護師もいるそうで病気そのものの境目もあやふやなのだと思い知る。過去に冒頭のような不安を抱いた水谷さんの、自身の経験と数々の取材から導き出した言葉が印象的だ。
「仕事を頑張っているような人ほど、自分を奮い立たせて、強がってしまいがち。不満や本音を口に出すことはとても大事だし、それで素の自分に戻れることもあると思うんです」
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