「私の母は鹿児島の人ですが、父方はおばあちゃんが奄美の人で。23歳の時に、友達の引っ越しの荷物の中に入って船で沖縄まで家出して、そこで米兵さんと恋をして、お父さんを産んだんです。実は名前も美穂で、ミホさんと何か運命的なものを感じました」
ミホさんとは、作家・島尾敏雄の妻で、奄美・加計呂麻島で育った作家・島尾ミホのことだ。満島さんが『海辺の生と死』で演じたトエは、彼女がモデルである。
「今まで故郷が舞台の作品に出たことがなくて、“出るんだったらものすごくいい脚本じゃなきゃ嫌だ”って言っていたんです。越川監督の書いた脚本を読んだ時、言葉の隙間から波の音が聞こえてくるように感じて。思わず“監督、どうして島のことを知っているの”と言いました」
脚本は夫妻の複数の小説を元に、彼らの実際の出会いと恋を描いたものだ。1944年。奄美のカゲロウ島で国民学校の教員として働くトエは、駐屯してきた海軍の朔中尉と出会い、惹かれ合う。
「監督は男性性が強いものがあまり好きじゃないそうで、ラブシーンでも女の人が上になるように指示するんです。そのほうが対等に見えるからって。映画を観た人は“満島さん結構やるねえ”と思われるかもしれませんが、全部演出が入っていますよ(笑)」
島の自然と男女の運命が濃密に描かれる本作。満島さんはミホが暮らしていた集落の言葉を再現し、島唄も披露している。トエはいつも穏やかだが、実は内に強い愛情を秘めた女性なのだと、彼女の一挙手一投足から伝わってくる。
「今の年齢で、自分の故郷に腰をすえて撮影できてよかった。私はトエと島そのものの役という、一人二役の気持ちでしたが、島が味方になってくれた気もしますね。パワーが強い場所だから、よからぬことが起きることもあるけれど、無事に撮影もすみましたし」
だが、島尾夫妻といえば敏雄の私小説『死の棘』が有名だ。そこで綴られるのは、夫の不実を知って精神を乱していく妻との極限の日々。つまりトエたちには、この先そんな現実が待っている―。
「映画は8月15日の終戦で終わりますが、実は脚本のいちばん最後に<そしてこれから二人の戦争が始まる>とありました。島の自然や神秘の中で育ったミホさんの内側の世界が、あまりにも美しくて深いからこそ、『死の棘』の世界に振り切れたのかなと感じます。でも、彼女を夫の浮気で狂った女の人と思っている方たちに対して、この人だって普通に人を愛して、その人と愛を育みたかった一人の女性なんだと、どうにか伝えられたらと思いながら演じました」
満島さん自身とトエは、また違うタイプだという。でも、
「少女のまま大人になったところは近いと思います。私は未だ少女のままに物事を考えちゃうんです。13歳で上京した時のまま、おばあさんになっていく気がします」
カメラマンの私物の招き猫と戯れながら、あどけなく笑った。
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