睡眠環境を構成する、光、音、香り、体感の4大要素。2人の眠りのエキスパートを識者に迎え、要素別に快眠のための実践TIPSを紹介。無理なくできることから始めてみよう。
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【環境要素:光】睡眠の大敵、ブルーライトは夕方以降徹底して避ける
「ブルーライトを浴びると、眠りを誘う睡眠ホルモンのメラトニンの合成が抑えられてしまう。理想の時間に眠れないという事態にならないよう、夕方以降はブルーライトを避けて」(医師・中村真樹さん)
スマホのブルーライトより、実は蛍光灯のほうがブルーライトが強いというデータも。
「通勤電車の中も白い光が煌々と灯っていますし、コンビニも刺激が強い。夜遅くに家に帰るときはブルーライトカットのメガネをかけるなど、ケアの徹底を」(睡眠コーチ・サトウ未来さん)
【環境要素:光】睡眠前は強制的に暖かい光にチェンジ
自律神経をリラックスモードの副交感神経に切り替えるには、就寝約1時間前から暖色系照明に切り替えるのが理想。
「賃貸マンションなどに住んでいると、天井据え付けの真っ白な照明のまま、眠る直前まで過ごしているパターンが多いです。それだと脳は覚醒しっぱなし。脳への光の影響は大きいので、時間で強制的に暖色系の光に変わる電球にするなど、自分なりに工夫してみましょう。夜は足元を照らす間接照明に変えるのもおすすめです」(サトウさん)
【環境要素:光】暗闇が苦手なら、ベッドより下にほのかな明かりを

目を閉じていてもまぶたは光をキャッチし、脳に刺激を与えてしまう。真っ暗が正解というのはそれゆえだ。
「空調やWi-Fiなど、機器使用中に灯る赤や緑の光も気になるもの。そうした光を消す専用のシールを使いましょう。また、カーテンの隙間を埋めるアイテムもあります」(サトウさん)
ただ、真っ暗だと不安になる人も。
「その場合は、目線より下のフットライトなどを使って。明るさはロウソクの光より暗い程度に抑えるといいですよ」(サトウさん)
【環境要素:音】自然音に含まれる“ゆらぎ”のリズムに注目

波の音や雨音、小鳥のさえずりといった、自然音に含まれるある種のゆらぎが心をリラックスに導いてくれる。
「これを1/fゆらぎといいますが、半分予測できて、半分予測できないような動き方を指します。メカニズムは不明ながら、心への癒し効果は世界中で認められています。実は音だけでなく、ろうそくの炎の揺れ具合も1/fゆらぎなんです。眠る前に心を安らかにするため、音や光などのゆらぎを利用してもいいかもしれません」(中村さん)
【環境要素:音】ラジオやオーディオブックを聴きながらの寝落ちはNG
視覚と聴覚をダブルで刺激する、テレビ番組や動画を見ながら寝るのがダメなのは想定内だけど、ラジオやオーディオブックを聴きながら寝るのもNG。
「言葉を理解しようと脳が覚醒してしまうからです。不安を煽るような話、興味を惹かれる話は特に脳が興奮してしまうので、眠りの妨げになります。人の声を聞くと安心するというなら、心を落ち着ける話などがよいと思います。音程があまり変わらない、穏やかな声を選んでみましょう」(サトウさん)
【環境要素:音】住んでいる場所、心の状態に合わせて音を活用
「図書館内で感じるレベルの40デシベル以上の音で脳に覚醒反応が起きるというデータがあります。また、持続音より聞き慣れない音、突発音で覚醒しやすいもの。気になる人は、不快感のないイヤープラグなどで対応を」(中村さん)
またノイズキャンセリングも役立つ。
「都心部に住んでいる人は、ホワイトノイズを使うと効果的です。ただ、ストレスが溜まって眠れない人は余計イライラする音なので、ゆらぎのある自然の音を流しましょう」(サトウさん)
【環境要素:香り】オフとオンの香りの使い分けで脳を変換

香りによって人には快・不快の感情変化が起きる。
「不快な香りを嗅ぐと交感神経が優位な緊張状態になり、心地よい香りを嗅ぐと副交感神経が優位なリラックス状態になります」(中村さん)
そこで、眠る前にはリラックス効果がある香りを使い、目覚めには頭がスッキリするリフレッシュ効果のある香りで、脳の切り替えをサポート。
「この香りを嗅いだら眠る、目覚めると習慣づけていくと、より切り替えがスムーズにいくようになるでしょう」(中村さん)
【環境要素:香り】自分基準の安らぎの香りで入眠
リラックス効果が高いことで有名なのはラベンダー。
「入眠時間が短くなるというエビデンスがあります。また、天然の抗うつ剤といわれ、セロトニン分泌を促すベルガモットもおすすめです」(サトウさん)
とはいえ、苦手な香りだったらその効果も得にくい。
「香りは脳の記憶と直接つながっているので、自分にとってリラックスできる香りを選ぶのが一番です。お気に入りのハーブティーを飲みながら、同時に香りを楽しむのもいいでしょう」(サトウさん)
【環境要素:体感】エアコンはつけっぱなしが正解
省エネのつもりで、エアコンにタイマー設定をかけるのは熱帯夜が続く時期には不適切。
「熱帯夜にはエアコンを切ると1時間ほどで暑くなり、寝苦しさは睡眠の質を明らかに悪くします。また、暑さで目覚めエアコンをつけ直すと、室温を一気に下げるためモーター音がうるさくなるので、眠りにつきにくくなります。ぐっすり寝たいなら、睡眠中エアコンは弱風でつけっぱなしにしましょう。体温調節は薄いタオルケットで対応できます」(中村さん)
【環境要素:体感】心地よい睡眠ウェアでリラックスを

肌は快・不快を敏感に察知するので、睡眠ウェアは慎重に選びたい。
「汗で張り付く不快感も眠りを妨げるので、吸湿性、通気性があり、締め付けのない柔らかな素材を選びましょう」(中村さん)
部屋着と寝間着を兼ねているならすぐにパジャマを用意して。
「寝心地を良くするには、眠るためにデザインされたウェアが最適。また、パジャマに着替えるという行為が“睡眠の儀式”となり、気持ちが切り替わって眠りにつきやすくしてくれます」(サトウさん)
お話を伺った方々
Profile
中村真樹
日本睡眠学会総合専門医、日本精神神経学会精神科専門医。「青山・表参道睡眠ストレスクリニック」院長として診断、治療に従事。著書に『仕事が冴える「眠活法」:疲れを「リセット」する 脳を「活性化」する』(三笠書房)がある。
サトウ未来
睡眠コーチ。睡眠を軸に、健康とコンディションづくりをサポート。“睡眠を整えれば、人生が整う”をモットーに、持続可能なセルフケアを提案し、延べ10万人以上の人を支援。著書に『働く女子のための睡眠革命』(光文社)。
anan 2460号(2025年8月27日発売)より