
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「アフリカ開発会議(TICAD)」です。
民主主義国として、アフリカ諸国との関係強化は必須
8月に横浜で第9回アフリカ開発会議(TICAD9)が開かれました。TICADは1993年以来、日本政府が主導となり開催しているアフリカの開発をテーマにした国際会議です。この会議でJICA(国際協力機構)は「JICAアフリカ・ホームタウン」事業を発表。愛媛県今治市をモザンビーク、千葉県木更津市をナイジェリア、新潟県三条市をガーナ、山形県長井市をタンザニアのホームタウンとし、アフリカ諸国との関係を強化しようというものでした。アフリカの課題解決と日本の地方活性化の両方を改善しようとしていたんです。日本の街を「第二のふるさと」のように感じてほしいという意図だったのですが、ナイジェリアの新聞が、「日本が日本の領土を差し出してくれた」「特別なビザを発給してくれる」という間違ったメッセージを報道してしまったため、「JICAがアフリカに日本を売り飛ばした」とSNSで炎上。JICAは事業を白紙撤回することになりました。
冷静に考えれば売り飛ばすはずはありません。日本とアフリカの関係に水を差したい人たちが、火をつけたという可能性もゼロではありません。
TICADに合わせて8bitNewsでも、JICAが支援するウガンダやルワンダのスタートアップの取り組みを取材しました。両国ともIT立国を目指しており、教育支援によりエンジニアが育ってきています。ただ、国内では活躍の場がないため、オンラインで日本の企業と現地のITエンジニアを引き合わせて、人材の足りないところにアフリカの知的労働者を入れるという関係を模索していました。
現在、ロシアや中国がアフリカに深くコミットしようとたくさん投資をしています。日本のODA(政府開発援助)が減っている今、アフリカと少しでも深くつながりを持ち、自由主義のアライアンスに入ることの意義をアフリカ諸国に感じてもらうことは、外交上とても大切です。その重要性が認知されていないことが大きな問題だと思います。「JICAアフリカ・ホームタウン」は、日本を切り売りするのではなく、日本の国益になる構想であったと思うと残念でなりません。

五月女ケイ子解読員から一言
誤情報からこんなに炎上するのを目の当たりにすると、SNSの恐ろしさを実感します。日本のODAが減っている分、地道に繋がりを持ち支援していく事業でしたが残念です。炎上はあっという間だけど、大事なことは一歩ずつなのだなとしみじみ思います。
解説員
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堀 潤
ほり・じゅん ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『堀潤 Live Junction』(TOKYO MX月~金曜18:00~19:00)が放送中。新刊『災害とデマ』(集英社)が発売中。
解読員
Profile
五月女ケイ子
そおとめ・けいこ イラストレーター。楽しいグッズが買える、五月女百貨店が好評。細川徹との共著、ゆるくておバカな昔ばなし『桃太郎、エステへ行く』(東京ニュース通信社)が発売中。
anan 2466号(2025年10月8日発売)より