
河合優実さん
先頃まで放送されていた連続テレビ小説『あんぱん』でも、言葉はなくとも居ずまいや表情、醸し出す空気で役の心情を見事に描き出し、その高い演技力で視聴者を釘付けにした河合優実さん。その河合さんが、岩松了さん作・演出の舞台『私を探さないで』に出演する。
ステージに立つことは自分の原点という感覚です
「このお仕事を始めた頃から、事務所の先輩でもある岩松さんの舞台は拝見していて、いつか出られたらと思っていました。もともとダンスをやっていたことからお芝居に興味を持ち始めたので、ステージに立つことは自分の原点という感覚があるんです。舞台は今後も続けていきたい場所ですし、出演が決まってからずっとすごく楽しみにしていました」
岩松作品は、登場人物の関係性や状況などの説明がないまま始まる。観客は、交わされる会話の断片を拾い集め、想像を巡らせて物語を紡いでゆく。明確な起承転結がない作品が多いため難解と言われることも。本作で河合さんが演じるのは、ある日突如失踪した晶という女性だ。時空を行ったり来たりしながら、晶と彼女と関わる人々の姿が描かれる。
「自分の役の視点で台本を読むと、それぞれの登場人物との関係性があったからこの会話をしているんだなというのが理解しやすく、客席で観るより難解さは感じませんでした。ただ、稽古が始まって、最初に台本を読んだときと印象がどんどん変わっているんです。当初は、なぜこのセリフを言うのか、自分の中で動機を見つけながら読んでいたけれど、そういうことではないのかもしれないなと思い始めています。岩松さんも『晶は他の人たちを動かしていく存在だと思う』とおっしゃっていましたし、今は周りの人を動かすための自分の役割を先に考えて、そこからお芝居を作っていくやり方を探っています。映像では自分の中で結論づけてお芝居に臨むことが多いですが、やはり舞台はいろいろなやり方を試せるところが楽しいです」
さまざまな人の言葉で語られてゆく晶の失踪。果たして失踪した理由は何なのか、彼女は今どこにいるのか…。過去か現在か、現実なのか妄想なのか、謎が謎を呼び、物語はサスペンス的な様相も見せてゆく。
「それぞれのシーンで実際に晶が存在しているのかどうかは、読み込んでいけばわかってくるんです。でも、同じシーンの中でそれが揺らいだりする瞬間があり、しかも晶の言葉が本心なのか嘘なのかも明らかではないんです。そこを今少しずつ解き明かしながら稽古しています」
基本的には、役の道筋をきちんとつけて演じていきたいタイプとか。ただ、「岩松さんの舞台に限っては、それが一番いい形ではないような気もしている」と話す。そんな岩松作品の経験者である共演の勝地涼さんや小泉今日子さんの稽古に向かう姿勢にも、学ぶことは多い。
「セリフひとつでも、解釈や表現の仕方でいろんな言い方ができるんです。最初は様子を窺いながらやってしまいそうなものなのに、みなさんご自分の中でパンッと方向性を決めて毎回演じられている。私はわりと正解を出したがってしまうタイプなので、みなさんの思い切りのよさをすごいなと思って見ています。全員が、一番いいものを作りたいという気持ちで、恐れず挑戦していく感じがすごく心地よくていい時間です」
映像と舞台、「大きく分けて身体表現という意味でお芝居をするという部分は一緒ですが、プロセスが違う」と語る。そんな言葉を聞き、河合さんにとってお芝居は言語ではなく身体表現なのだ、と驚いた。セリフのないシーンでもつい視線を奪われるのはそのせいかもしれない。
「声でセリフを言うことも含めて、自分でコントロールできるものですから、体を使って表現するものだと思うんです。セリフのないところでも、人と人のやり取りってたくさん生まれていて、それを自分の体を統制しながら表現していくのがいつも楽しいです」
Profile
河合優実
かわい・ゆうみ 2000年12月19日生まれ、東京都出身。今年、映画『あんのこと』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。近作に、連続テレビ小説『あんぱん』、映画『ルノワール』。出演映画『旅と日々』は11月7日公開予定。
Information

M&Oplaysプロデュース『私を探さないで』
ある日、突然姿を消した晶(河合)。久々に郷里に帰省したアキオ(勝地)は、高校時代の担任で現在は作家となった大城(小泉)と再会。晶について語る中、失踪の原因は自分にあるのではという想いに囚われ――。10月11日(土)~11月3日(月) 下北沢・本多劇場 作・演出/岩松了 出演/勝地涼、河合優実、富山えり子、篠原悠伸、新名基浩、岩松了、小泉今日子 全席指定8500円 U-25チケット5500円 M&Oplays TEL. 03-6427-9486 大阪、富山、愛知、広島、岡山公演あり。
写真・小笠原真紀 スタイリスト・高橋茉優 ヘア&メイク・村上 綾 インタビュー、文・望月リサ
anan 2466号(2025年10月8日発売)より