お鍋とか、温泉とか。穏やかで小さな幸せが大事。
もこもこの重ね着から、大人の色香漂うレザージャケット、すこしギャルみのあるフェイクファーの装い、そしてトレンドのバラクラバを取り入れた少女のようにあどけないコーデまで。さまざまなルックで冬を表現してくれた齋藤飛鳥さん。まるでそれぞれが物語のヒロインかのような深みのある表情、気負いのない着こなしに俳優あるいは人としての進化も垣間見えて。
「おしゃれは以前と変わらず好きですが、背伸びするよりも機能性や着心地がいいものを長く楽しむようになってきました。発表会で早ばやと新作を予約…みたいなことは全然しないし、コートは何年も買ってない(笑)。今のところ買い替える必要を感じないから好きなものを長く…」
冷え対策も同じ。気負わず続けられることだけに絞っている。
「もともと冷え症で乾燥しがちな体質ですが、日常生活にプラスして特別な動作を増やすと、できなかったときに『うーむ』って消化不良な気持ちになっちゃう。その点ごはんは毎日食べるものだから、温活といったらごはん! それも季節に合った食事が好きなので、この時期になると自然と体が温まるものを作るようになっています」
ごはんといったらSNSでも話題の“さいとうあすかめし”、冬の食卓は鍋一択。
「やさしいおだしに、具で欠かせないのは大根ですかね(笑)。ちょっと調子を上げたいときは、生姜、にんにくもたくさん入れます。つけだれは…和風の鍋ならぜったい味ぽん! お気に入りのお肉屋さんで入手した塩につけて食べるのも好きです。気分にもよるけど、締めは雑炊が多めかな。鍋奉行? しても、せずとも。その時どきで合わせます(笑)」
なにげないごはんトークに自然と顔がほころぶ。いまは「おいしいものを食べて穏やかに暮らすことが最高のリフレッシュ」だそう。一方、俳優としても多忙な日々。とくにこの冬はドラマ&映画『【推しの子】』で双子の母親である伝説のアイドル、アイを演じている。圧倒的憧れを集めるカリスマを演じるにあたってはなかなか役を掴めぬ戸惑いもあったという。
「私から見てアイはあまりにもわからないことが多すぎた役でしたね…。役作りって、その人の過去を自分で想像して遡ってみるとか、反対にその役の最終目標が何なのかを考えると聞いたことがあるんですけど、私はアイが何をしてきて何をしたい人なのか全くわからなかった。だからまずは現場に行って、感じたことを表現することにしました」
そして演じた先にたどり着いたのは「めちゃくちゃ人間らしい、一人の女性」という結論。
「アイは愛に対して人より考え込み、飢えてもいた人間だと思いました。子供たちと接してる場面はちゃんと“親子”のように見えるけど、演じているこちらとしてはあんまり楽しくない。だって『愛してる』って言葉をお腹を痛めて産んだ子にさえ言えないわけですから。このぐじゅぐじゅとした感情をこの人は抱えて生きていたんだ。それって、とても人間らしいじゃないかと」
夢の東京ドーム公演を目前に散る。その心境は、東京ドームでアイドル人生に幕を引いた飛鳥さんだからこそ感じるもの、表現できたものもあったはず。
「自分のファンに刺されて、東京ドームに立てず、子供をこの世に残していかなければいけない。そこでやっと本当の愛の言葉を口にできる。あの場面は、約12年アイドル人生を送ってきたいまの私だから表現できた。5年6年アイドルやったくらいの私ではたぶんできなかった」
演じ切って、アイドルという職業への思いも新たになった。
「アイドルってすごいな、っていうのは純粋に思いました。どんな人間性すらも魅力になってしまう。それこそがアイドルという職業の凄み。そしてアイはああ見えて、多くの人が持ち合わせてる感情をちゃんと持っている。けどそれも演じたからわかったのであって、実際アイが乃木坂46にいたら…きっと自発的には交わらなかっただろうなあ(笑)」
そして『【推しの子】』のもう一つのキーワードは転生。もし飛鳥さんが転生したら、次の世はどんな生き方をしてみたいですか。
「アイドルは…もう大丈夫かな(笑)。でも日本が好きだから、次は日本の地方に生まれて目立たない一生を送りたい。いまも、穏やかで小さな幸せがあれば十分。お鍋がおいしくできたとか、冬は温泉で温まったりとか。でも自分だけが心地よい環境にいるのではだめ。自分の周りにいる人たちにも穏やかな心で働ける環境をつくれたらいいな」
燦々と、だけど淡々と周りを優しく照らしてくれる人。その静かに燃える心が、みんなの心をじんわりと温かくする。
PROFILE プロフィール
齋藤飛鳥
さいとう・あすか 1998年8月10日、東京都生まれ。乃木坂46、1期生。2023年5月東京ドームで行われた公演で卒業。その後はおもに俳優として活躍。ドラマ&映画『【推しの子】』でアイ役。インスタグラム(@asuka.3110.official)も人気。