出版不況といわれて久しいなか、地方の小さな出版社が少数精鋭のチームで躍進を続けている。限られた人数だからこそ無駄を省きつつ、あくまでも「普通」の感覚を重視する本作りとは。代表取締役で社長の大塚啓志郎さんにお話を聞きました。


色がないことが僕らの特徴。普通の感覚が広く届く本を生む

東京一極集中の出版業界で、兵庫県明石市にある社員7名のライツ社が一目置かれている。業界平均1~2割とされる重版率は、なんと約7割。2016年の創設以来、数々の話題書を生み出しているのだ。京都の出版社で同僚だった編集者の大塚啓志郎さんと、営業担当の髙野翔さんが2人社長を務めているのだが、近年増えている“ひとり出版社”という形態は、はじめから選択肢になかったそう。

「誤解を恐れずに言うと、ひとり出版社はベストセラーを出しにくいんです。並外れたセンスを持った編集者が作る尖った本は、間違いなく面白い。でもやっぱり、営業マンがいないと広がらないんです。その点、僕らは読み手を選ばないような本を作ってきたし、そもそも天才でもないので、ひとりでは無理。編集と営業、つまり僕と髙野がセットじゃないとベストセラーになるような本を作れないことはわかっていました」

7名を担当別にみると、編集、営業、営業事務が各2名で、編集サポート兼広報が1名。本を作る担当と売る担当の2本柱で連携を図っているのだが、これまで出版してきたラインナップも興味深い。一例をあげると、文芸評論家・三宅香帆さんの京大生時代のデビュー作『人生を狂わす名著50』、料理レシピ本大賞を受賞した『リュウジ式至高のレシピ』シリーズ、NHK Eテレで番組化されるまでになった『認知症世界の歩き方』など幅の広さに驚かされる。

「とある名物書店員さんに『ライツ社は色がなくていいね!』と言われたことがあって、それこそ僕らの特徴なのだと納得しました」

世の中にまだないものは、リスクではなくチャンス!

とはいえ、それらがなぜ“売れる本”になるのか。本作りの工程で特筆すべき点として、企画会議を行わないというのがある。その代わり、面白い企画を思いついた時点でグループLINEに書き込み、自由に意見を言い合うのだ。

「アイデアが浮かんだ瞬間が一番熱いのに、企画会議が1週間後だとしたら冷めてしまうじゃないですか。それに長々と文章にして企画書にまとめるよりも、短い言葉のやりとりだけで社員全員が盛り上がれるような企画のほうが、強いことにも後々気がつきました」

もうひとつ、一般的な出版社との大きな違いが年間の出版点数。大塚さんいわく、書籍編集者ひとりにつき年間10冊程度の本を出すのが平均的とされるなか、2名の編集者がいるライツ社はわずか5冊程度。そのぶん作る担当も売る担当も、1冊に対してかなりの時間と労力を注ぎ込めることになる。

「ジャンルは多岐にわたるのに『ライツ社の本だから』と買ってくれる方も多く、信頼していただいているのだと感じます。どの本も圧倒的に作り込んでいるからこそ、その努力や工夫が読む人にも伝わっているのだと思います」

ボーナスは全員同率で、利益に比例して上乗せ。少人数で目が届き、査定の必要がないからこそ可能なシステムであり、それがモチベーションにも直結している。

「ビジネスモデルとして新しいことは何もしていませんが、明石で少人数でやっていることが特徴になっているのでしょう。東京のように情報に溢れていない地方に根を張り、普通の暮らしをしながら売れる本をイメージできることが、強みなのかもしれません」

近年のヒット作は、2024年に児童書で初めて本屋大賞にノミネートされ、シリーズ化もされている『放課後ミステリクラブ』。「人気ミステリー作家・知念実希人さんに“子どもが人生で初めて読む本格ミステリー”というコンセプトで執筆を依頼しました。これまで小学校低学年と高学年向けには大ヒットシリーズがあったのに対し、中学年向けミステリーは難しいというのが業界の定説でした。そこに挑戦して、喜ばれている作品です」

Profile

大塚啓志郎

おおつか・けいしろう 1986年、兵庫県明石市生まれ。本の世界を志すきっかけは、阪神・淡路大震災。関西大学卒業後、京都の出版社にて編集長として勤務。30歳を機にUターンし、髙野翔さんと共に2016年、ライツ社を設立。

ライツ社

兵庫県明石市で初となる、全国流通が可能な出版社。ヨシダナギのベスト作品集『HEROES』や『毎日読みたい365日の広告コピー』など数々の話題書を出版。業界外に届ける、「明るい出版業界紙」をnoteで発信

取材、文・兵藤育子

anan 2470号(2025年11月5日発売)より
Check!

No.2470掲載

The TEAM 2025

2025年11月05日発売

ひとつの目標を目指して集まり、個々の才能や長所が混じり合うことでより高いパワーを発揮することができるチーム。そんなチームの現代における理想的な形や形成するための条件など多角的に考察する特集です。エンターテインメント界における注目チームにもフォーカス。4人の光る個性と大人の魅力に磨きがかかるA.B.C-Zは、メンバー4人によるグラビア&座談会が必見必読。まもなく結成15年を迎える超特急からはリョウガさん、ユーキさん、シューヤさん、マサヒロさんが登場。そして今年20周年を迎えたHANDSOME LIVEからは小関裕太さん、渡邊圭祐さん、東島京さん、本島純政さんに思いを語っていただきました。

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