「海外旅行」について、anan総研メンバーは今どう考えている?
まずは海外旅行の予定について、そして今の海外旅行への心配事について聞いてみました。
※ anan総研とは、20~40代の女性約200名からなるananの読者組織。
Q:今年の年末年始は海外旅行に行く予定ですか?
「行かない」「多分行かない」を合わせて「行く予定がない」と答えた人が8割超えという結果に。
Q:最近海外旅行がしづらいと感じますか?
8割以上が「海外旅行がしづらいと感じる」と回答。その理由を尋ねると、「円安の影響」がトップ、さらに「治安・現地情勢が不安」「燃油サーチャージの高騰」と続きました。
「治安・現地情勢が不安」の理由についてさらに深掘りして聞いてみると…。
Q:最近の海外旅行前や旅行中に「世界の治安の悪化や紛争の影響」を感じることはありましたか?
「今年ハワイに行った時に物価がすごく上がったなと感じたのですが、それ以上に夜のワイキキで危険を感じ、治安が悪くなっていたのには驚きました」(32歳・ライター)
「ロシアの上空を通れず長時間の迂回となるため、泣く泣くヨーロッパ旅行は諦めました(涙)」(30歳・コンサルタント)
海外旅行せずとも、世界中の治安の悪化や紛争の影響を日常生活で見聞きしたり、実際に体感したりすることも。
Q:「世界の治安の悪化や紛争の影響」を、日常生活を過ごしている時に感じることはありますか?
「ヨーロッパで生活している友人から、物価の乱高下や移民が増えたと聞き、ロシアやガザ周辺の情勢悪化の影響を同時に受けてしまっているんだなと感じました。アジア・北米とは緊張感が違うなとも感じます」(30歳・企画職)
「紛争の影響もあるとのことで、購入した新車の部品が足りず仕様変更になっていたし、納車にとても日にちがかかった」(44歳・医療)
「世界情勢についてのニュースを目にすることが多い。令和になってから特に感じています」(33歳・ショップオーナー)
世界で起きていること、私たちの不安など、気になるアレコレを日本赤十字社の方に聞きました。
anan総研メンバーも気になっている「世界各地の紛争や情勢」について、一般の人たちはどのようにとらえているのでしょうか。「Yahoo!ニュース みんなの意見」でのアンケート「ロシアとウクライナを巡る情勢について最も気になることは?」「イスラエルとパレスチナを巡る問題で最も気になることは?」というアンケートの結果では、両方とも半数以上が「民間人の犠牲」と答える結果に(※1)。
そこで今回、世界各地で人道支援活動を行っている日本赤十字社・事業局国際部企画課の樫村美穂さんと佐久間萌子さんに、現地で実際に起こっていることをお聞きしました。ちなみに、樫村さんも佐久間さんもanan読者と同年代。そのようなお二人から聞くお話は、より身近に感じられると思います。
――ウクライナやイスラエル、ガザなど紛争地域にいる民間の人々は、今どんな状況なのでしょうか。
樫村さん ウクライナでは紛争が激化してすでに2年半以上が経過していますが、いまだに食料や水、電力などが不足しています。医療サービスを受けるのも困難で、特に子どもや女性、病気や障害のある方、高齢者など日頃から支援が必要な方は命をつなぐことが難しい状況です。また、ガザには約5万人の妊婦さんがいるという情報がありますが、定期健診も簡単に受けられない逼迫した状況であると聞いています。ガザに派遣されていた大阪赤十字病院の看護師は、現地の医師が傷病者の治療に追われる中、搬送されてきた自分の子どもを目の前で亡くすという惨状を目の当たりにしました。
――言葉を失うような状況ですね。民間人を守るための「国際人道法」という法律があると聞きました。どのようなものなのでしょうか。
樫村さん 「国際人道法」は、武力紛争時に適用されるルールで、民間人の保護や戦闘方法の制限などにより、戦争がもたらす被害を軽減する目的があります。例えば民間人や学校、医療機関、赤十字標章(赤十字や赤新月マーク)をつけて救援活動をしている人を攻撃してはいけないといった、武力紛争時という最も非人道的な状況においても守らなければならない最低限のルールが定められています。
――メディアではそのような攻撃対象外となるべき病院や住宅が攻撃されたというニュースが報じられ、不安を感じます。
樫村さん このルールは、紛争当事者がしてはいけないことと、民間人の保護のためにするべきことの2つの側面から書かれています。多くの民間人が犠牲になっていて、「国際人道法」というルールが遵守されていないところが、ニュースでは注目されています。一方で、実際に私たちが赤十字マークをつけて紛争地で救援活動ができているのはこのルールのおかげで、それによって多くの命が救われ、民間人の犠牲が軽減されているのも事実です。
――ひとつの紛争をとっても、多角的に知る必要がありますね。佐久間さんも今年の夏、バングラデシュで活動されていたそうですね。
佐久間さん バングラデシュ南部には、2017年以降、隣国ミャンマーから、多くの少数民族の人たちが避難してきています。日本赤十字社は、バングラデシュ赤新月社の仲間と共に避難民キャンプで医療支援を行ってきました。避難生活が長引いてきたので、今は治療だけでなく、感染症予防のための知識の普及や、妊産婦健診の実施など、より健康で安心に暮らせるようなサポートもしています。
――この写真はどんな活動をしている様子ですか?
佐久間さん バングラデシュの避難民キャンプの施設で、子どもたちの心理社会的支援(こころのケア活動)をしているところです。身体だけでなく心の健康も大事です。先が見通せない不安のなか、みんなで集まり気持ちを共有して不安をやわらげる活動を行っています。私が訪問した子どものセッションでは、子どもたちがゲームなどで楽しんでいる様子が伺えました。たくましく生きている子どもたちの笑顔は、心に触れるものがありましたね。
――ところで、バングラデシュではこの夏、デモ隊と警察との激しい衝突が起こりました。佐久間さんも遭遇されたそうですね。
佐久間さん 今回、デモ隊と警察の衝突が激しくなり、あっという間に状況が悪くなりました。外出禁止令が出されて私たち職員も外に出られなくなり、また、何の予告もなく突然ネットが遮断され、5日間もつながりませんでした。バングラデシュで起きていることはネットで発信できず、ほとんど報道もされず、世界から切り離されているように感じました。ちょうど今年のパリオリンピックが開催されていた時期です。
――その衝突で犠牲者も出たのですか?
佐久間さん 一般の人たちも巻き込まれ、数百人が亡くなりました。現地のテレビでデモ隊と警察が衝突する映像を見ていると、気持ちが落ち込みました。罪もない学生を含め、多くの市民が逮捕されたという報道もあり、現地に住む人たちは心身ともに傷ついています。情勢がかなり不安定になり、バングラデシュでの避難民支援活動も継続するのが難しい状況となったため、当初予定していた派遣期間を繰り上げて帰国しました。
――避難民といえば、樫村さんは、今年9月にタイ・バンコクで行われた、赤十字のアジア・大洋州の離散家族支援の会議に出席されたとのこと。避難民の中にも多くいるといわれる、家族と離れ離れになった人たちを助ける「離散家族支援」についても教えていただけますか。
樫村さん 紛争や災害が起きると、行方不明者が増えて家族と連絡がとれなくなる方も増えます。私たちは行方不明者を避難所や難民キャンプなどで探し、無事に発見できれば、家族と電話やメール、手紙のやり取りができるようにしたり、再会できるようにして支援しています。
海外渡航先で紛争や災害に遭遇する可能性も! 備えておくべきことって?
――ところでお二人は、お仕事も含め、日頃から海外に行く機会も多いと思います。私たちも海外旅行する時、渡航先で紛争や災害に遭遇する可能性があると思うと不安になりますが、備えておくと安心なものはありますか?
樫村さん 英語が通じないところもあるので、スマホの翻訳アプリがあると便利でした。また、海外旅行でなくても、私は外出する時に軽めの防災バッグをいつも身につけています。簡易トイレやライト、月経用品、マスク、コンタクトレンズなどを入れています。私は子どもがまだ幼いので、着替えやオムツなど子ども用品も含め、日頃から持ち歩くようにしています。
――佐久間さんは、まさに治安が悪化していく渦中のバングラデシュに滞在されていましたが、その時に準備しておいてよかったものや、意識しておいたほうがいいと感じたことはありましたか?
佐久間さん ネット遮断の経験から、情報収集や支払いなどについて、ネットに依存しすぎないほうがいいと思いました。例えばカード決済ができない場合もあるので、現地通貨の現金はある程度持っていたほうがいいと思います。また、海外ではネット接続が弱いところもあるので、その国の一番大きいテレビ局はどれなのかを知っておくと、何かあった時テレビからの情報を効率的に得るのに役立ちます。
今、私たちができることって?
今も世界各地では紛争が起こっています。anan総研メンバーの回答からは、私たちができることは何なのか、自分なりに考え、答えを見つけ出している回答がたくさん寄せられました。
Q:紛争を直接止めることは難しいですが、今自分たちができることは何だと思いますか?
「自分の身を守るためにも世界情勢を知っておくことは大切。また、募金などどんなに小さくても自分たちにできることがあると感じたなら、行動する勇気も必要だと思います」(32歳・フリーライター)
「親として、未来を築いていく子どもたちに、考える力と優しい心を伝え、紛争のない世界を呼びかけていくことではないでしょうか」(33歳・ショップオーナー)
「世界情勢や世界中で起きている緊急事態に目を向け、紛争の内情を知ったり、募金をしたり、まずは関心をもつこと」(36歳・モデル)
紛争地で困難な状況にある人たちのなかには、私たちと同世代の女性や小さな赤ちゃんを抱えるママもたくさんいます。今、私たちにできることについて、再び日本赤十字社のお二人にうかがいました。
――日本赤十字社の人道支援をバックアップするため、今、私たちにできることはありますか?
樫村さん まずは紛争地や被災地で何が起きているのか、またそこで私たち赤十字がどんな支援を行っているかを知っていただきたいです。そしてそれを家族・友人など周囲の人に共有していただきたいです。私自身も子どもと一緒に世界情勢のニュースを見たり、自分が見聞きした世界の人道危機について子どもにできるだけわかりやすい言葉で説明したりして、日頃から次世代に伝えていくことを心がけています。
佐久間さん 自戒を込めて言うのですが、私も以前はニュースで報道されている部分、何人亡くなったという数字や映像だけ見て知った気持ちになっていたことがあります。でも、切り取られているニュースの裏に、一人ひとりの生活があります。命は助かっても心に傷を負っている人や、家族や友だちが亡くなっている人もいます。見えていない部分を想像していただきたいですし、私自身もそうしたいと思っています。
――最後に、日本赤十字社とNHKが毎年12月に実施している募金キャンペーン「NHK海外たすけあい」について、教えていただけますか。
樫村さん 1983年から開始したキャンペーンで、いただいたご寄付は世界各地で紛争や災害に苦しむ人たちを支援する活動にあてられ、これまで世界170の国と地域を支援してきました。昨年度は8.6億円ものご寄付をお寄せいただき、それを財源として、救援活動にとどまらず、平時からの人道危機に備えたワクチン接種などの感染症予防や救急法の普及、防災教育などさまざまな活動を行うことができました。女性や子どもなど日頃から支援が必要な方々を含め、世界中で苦しんでいる人を救うため、「NHK海外たすけあい」のご寄付にご協力いただけたらうれしいです。
私たちができる、小さな一歩を。
私たちは、紛争や自然災害は止められないけれど、現地で困っている人たちを遠くから支援することはできるはず。また、私たち自身、紛争や災害に巻き込まれる可能性もゼロではありません。みんなのため、自分たちのため、日本赤十字社のWEBサイトで正しい情報を知り、寄付することができます。まずは行動してみませんか?
【お話を伺った方】
日本赤十字社・事業局国際部企画課 樫村美穂さん
日本赤十字社の国際支援活動の広報業務をはじめ、国内での「国際人道法」の普及、核兵器廃絶に関する活動、また、赤十字の支援活動のひとつである安否調査(離散家族支援)の業務を行う。
日本赤十字社・事業局国際部企画課 佐久間萌子さん
世界各国に起きている人道危機に対して、現地赤十字・赤新月社(姉妹社)と連携し、日本から医師や看護師、ロジスティシャン等を国際要員として海外に派遣する業務を行う。自身も2024年6月から9月までバングラデシュでの現地支援を行う。
※ 所属先はインタビュー当時のものです。
※1 出典「Yahoo!ニュース みんなの意見」より(リンク)
「ウクライナ情勢、あなたが最も気になることは?」
「イスラエルとパレスチナを巡る問題で最も気になることは?」
イラスト・王 悠夏、文・田代わこ