サブレ缶にぼんやり浮かぶ花の残像は、淡い記憶の欠片のよう。蓋を開ければたちまち懐かしいミルキーな香りに包まれ、子供の頃のおやつの幸せを思い出す。逆玉手箱みたいだな、とか思いつつサブレを齧ると気持ちいいほどサクサクで、バター飴にも似たバターミルクの香りとメープルの風味がふわり。シンプルながらクセになるフレーバーに、「もう一枚」が止まらなくなる。「昔ながらの素朴なお菓子で、楽しい記憶を思い出してほしくて」と江藤英樹シェフ。『ドミニク・ブシェ トーキョー』や『ティエリー マルクス』など、名だたるグランメゾンでシェフパティシエを務め、華やかで斬新なデセールを作ってきたからこそ、お菓子の原点にいきついた。どのお菓子もクラシックだけど硬派すぎず優しげ。
白い蕾のような〈ヴァニーユ フランボワーズ〉には彼自身のノスタルジーも潜む。「小さい頃イギリスに住んでいて、よくベリー摘みに行ったんです」。白いムースの中にはフランボワーズジュレの赤。キュンとくる甘酸っぱさに、カカオパルプ(果肉)ムースが果実味の奥行きを広げ、ピスタチオやプラリネがナッティなコクを重ねていく。その華やぐ味わい全部をバニラムースがまろやかに包みこんで。ノスタルジックな味わいは、新たな幸せの記憶も紡ぎ出すのだった。
手前・右から、ヴァニーユ フランボワーズ¥918、サブレ メープル バターミルク 1缶¥3,564。奥・ロレーヌ地方のアーモンド香るガトーショコラ、ガトー ナンシー¥3,942はスッと軽い口溶けでいてカカオ感しっかり。
LA NOSTALGIE 東京都新宿区新宿3‐14‐1 伊勢丹新宿店本館B1 TEL:03・3352・1111(大代表) 10:00~20:00 休みは施設に準ずる クッキーやパフェで話題の『ペイサージュ』の姉妹店として3/30開店。
チコ スイーツライター。大人気のガイド本『東京の本当においしいスイーツ探し』(ギャップ・ジャパン)シリーズ監修。
※『anan』2022年4月13日号より。写真・清水奈緒 スタイリスト・野崎未菜美 取材、文・chico
(by anan編集部)