原 夏見『彼女たちの式典』

高校時代のバスケ部部長・愛子から、結婚式の招待状を受け取った香織。もう何年も会っておらず、〈部活をやってなかったらまぁ関わらないだろうな〉と思うようなメンバーと再会するであろう挙式に、香織は参列するかどうか思案する。


高校生活や部活動…記憶の箱が開くような面白さに心が震える

繊細な心理描写から幕を開ける『彼女たちの式典』、その著者が原夏見さんだ。

物語は、1話ごとに視点人物を変えた連作形式のスタイルで進む。

会社員の香織は人とつるむのが苦手で、医師の環は面倒見のいいしっかり者。意図せず注目を浴びてしまう華やかな容姿を持つさくらと、そんな彼女に劣等感を抱いている七未。そしてみんなが連絡を取りづらくなった要因は、元保育士の愛子にあって…。大人になった5人のいまが、過去や互いの関係性を回想しつつ描かれていく。

「先に4話分のネームを完成させてから作画に入るというプロセスで作りました。描き進めて、手が止まったら別の回を進める作業の繰り返しです。どんな演出で描くか、過去の回想をどんなタイミングで入れ込むかなど迷いがちな部分が、あとからふっと浮かんできたりしたのは面白い体験でした。彼女たちの自己主張の部分も、相違はあれど理解できるところも多く、実際、正解もない悩み。だからこそ私としては、どんなときも互いの中間地点を見つけて、どうにかやっていくことが大事なんじゃないかなと考えながら描いていた気がします」

さくら視点の回に登場する〈斎藤さん〉の存在も、読者にとって羨望&共感ポイント。さくらは、勤務先に派遣で来ている斎藤さんの優しさや気遣いに触れ、溜まっていた心の澱が浄化されるのを感じる。

「私自身は友達という関係性が大好きで、いつも自分がオープンマインドでいられる、すごく大事な友人が何人かいるんですね。なので、〈友達と言うには難しい〉と語る5人と友達観は少し違うけれど、彼女たちは決してギスギスした関係でもないし、部活という同じ時間を過ごした者同士、一種の信頼感はきっとあると思って、愛を持って描きました。結婚式を機に彼女たちの交流が深まるとかはなさそうですが(笑)、それぞれの幸せをずっと願っているような心持ちで、この先も関係は続いていくんでしょうね」

作品全体に、労働問題や性加害問題など、現代女性たちを悩ます社会的課題がさりげなく織り込まれているのもリアル。読んでほしい一冊だ。

Profile

原 夏見

はら・なつみ 1988年生まれ。2016年デビュー。月刊誌『JOUR』(双葉社)にて「それ以外の星たち」を連載中。過去作に『タカセコーヒーと私』(講談社)等。

information

『彼女たちの式典』

バスケ部顧問の眞満子をロールモデルとして、女性ゆえの呪縛とそのモヤモヤからの訣別を描く「あの日、Ms.ウェストと」(電子版未収録の番外編)も秀逸。双葉社 814円 Ⓒ原夏見/双葉社

写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

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