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現在上映中のサイバー・バトル・アクション映画『シャドウズ・エッジ』。ジャッキー・チェンとレオン・カーフェイというレジェンド俳優の共演、度肝を抜かれる超絶アクションの数々、SEVENTEENのジュンや中国俳優・ツーシャーら若手スターの魅力溢れる演技、緊張感溢れる駆け引きの物語などにハマる人が続出中の本作。ライター・西森路代さんによるレビューをお届けします。
中国で4週連続興行収入1位を記録し、日本でも口コミでじわじわっとその面白さが伝わり、話題となっている映画『シャドウズ・エッジ』。本作は、サスペンス・アクション映画であると同時に、緻密な物語や多彩なキャラクターも大きな人気の要因となっている。
原作となったのは、香港で2007年に公開されたヤウ・ナイホイ監督による映画『天使の眼、野獣の街』。韓国でも『監視者たち』というタイトルでリメイクされている。
物語は、正体不明のサイバー犯罪集団の捜査に手を焼いたマカオの警察が、かつて活躍していた追跡のエキスパート黄徳忠(ホワン・ダージョン)を呼び戻し、犯罪集団を率いる通称“影”と呼ばれる傅隆生(フー・ロンション)を追い詰めるというもの。

ジャッキー・チェン演じる“追跡班”のエキスパート・黄徳忠(左)と、レオン・カーフェイ演じる犯罪集団の首領・傅隆生(右)
黄徳忠とタッグを組む女性警察官の何秋果(ホー・チウグオ)=ニックネーム・果果(グオグオ)は、女性だということで、第一線で働けないことに理不尽さを感じている。これは、映画に限らず、現実社会で女性が感じる“見えない障壁”を表しているように思える。黄徳忠も、彼女を当初は一人前扱いしていないようなところがあったが、それは、まだ警察官としての経験値が足りない部分があると考えているからだった。
しかし、彼女は、黄徳忠と捜査を続けるうちに、警察官としての成長を見せる。また、黄徳忠と何秋果は、彼女の父親を通じての因縁があり、その過去から、黄徳忠は何秋果のことを父親のような目で見守っていたのだとわかるのだ。
黄徳忠は父性から彼女を過剰に守ろうとしているようにも見えるが、実は、彼女の成長を見守り、彼女に十分な経験値ができたときには、独り立ちさせようという冷静な目も持っていた。圧倒的な実力を持つ“父”が、ずっとその立場を譲らないのではなく、“娘”が成長すればその座を譲ると言う、継承の物語としても見ごたえがあった。

チャン・ツィフォン演じる若手警察官の何秋果
第一線を退いたベテラン刑事が、中年ではなく“老年の危機”とも言えるアイデンティティのクライシスに陥るという流れは、通常の映画ではリアルな物語として描かれやすいが、この映画ではそんな場面はない。それは、継承が物語上うまくいっているからということもあるが、それ以上に、黄徳忠も彼を演じたジャッキーも、今でも十分に現場の第一線で戦えるからだ!!!

多彩なアクションの数々は圧巻!
それとはほかに、こうした捜査ものの映画で私が痺れるのは、彼ら警察官が犯人を欺き、芝居を打つシーンである。多くの潜入捜査官ものの作品でも、潜入していると知られないように、刑事は常に誰かになりすまし、演技をしている。このときの嘘が見破られるのではないかという緊張感は半端ない。
この映画でいうと、傅隆生の家をつきとめるために尾行をしていた黄徳忠と何秋果が、親子を装う場面がある。そのうえ、傅隆生を家に呼び、一緒に食事をすることになるのだ。一対一の欺き合いであれば自分だけで芝居をすればいいが、一対二となると、ふたりで口裏を会わせなければいけない。その緊張感は想像以上のものがあった。
特に、欺き合いの芝居のエチュードの中で、嘘と真実が一瞬、混じりあうシーンがある。そこに、黄徳忠の何秋果に対する深い愛情が見えて、思わず涙がこぼれそうになってしまった。

次第に親子のような絆を築いていく黄徳忠と何秋果
犯人と欺き合いながらの食事シーンというものは、原作となった『天使の眼、野獣の街』にも『監視者たち』にもなかった。それ以外にも、『シャドウズ・エッジ』にしかなかった設定で印象的なものがある。それは、傅隆生が形成している、“父と息子たち”としてのもうひとつの疑似家族である。
犯罪組織が疑似家族、共同体として成立していて、彼らにとってはそこだけが居場所であったという物語はいくつか存在する。韓国ノワールで言うと、『声もなく』や、『コインロッカーの女』、日本であれば『万引き家族』などがあり、また『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』もまた、犯罪組織ではないが、血縁のない共同体と居場所を描いた作品でもある。いずれも、行き場がなく、ギリギリの生活をしている子供や移民などがいて、彼らを包摂する場所が犯罪組織しかなかったのだということがうかがえ、そのことが共同体を作っていると映画に描かれることは多い。
『シャドウズ・エッジ』においても、傅隆生の犯罪組織に属する熙旺(シーワン)と熙蒙(シーモン)をはじめとする息子たちが児童養護施設からもらわれてきたシーンがあり、傅隆生に拾われなければ、彼らがどのような暮らしをしていたのかはわからない。兄弟は、この“父”に認められようと必死に生き、そして愛と同時に憎しみを抱いていた。

傅隆生と“息子たち”
なかでも父と息子のシーンで焼き付いたのは、熙旺が父の顎に鋭いカミソリを当てて髭を剃るシーンである。『トワイライト〜』と同様に、ギリギリのせめぎ合いが感じられ、ここでもゾクゾクするような緊張感が漂っていた。
この疑似家族が描かれることで、より傅隆生=ヴィランの持つ孤独や、恐ろしさが際立って感じられた。この映画が面白いのは、疑似家族描写がひとつではなく、黄徳忠の疑似家族と、傅隆生の疑似家族、ふたつが同時に走っていることだ。

ツーシャーが一人二役を演じる双子の、天才ハッカーの弟・熙蒙

兄の凄腕ナイフ使い・熙旺
さきほど私は、ジャッキー=黄徳忠には、老年の危機やアイデンティティのクライシスがないと書いたが、レオン・カーフェイ=傅隆生のほうには、老年のアイデンティティのクライシスがはっきりと描かれているのである。それは、自分が犯罪を遂行するときには若い息子たちを導いているが、失敗したときには一方的に息子たちに非があると責める場面で気付かされた。このような関係性では信頼関係は築けず、恐怖で支配しているだけで、この疑似家族は一触即発の状態にある。
しかし、正しくないレオン・カーフェイというのは魅力的である。『エレクション 黒社会』でレオン・カーフェイ演じるディーは、黒社会の構成員たちを粗末な木の箱にいれて岩山の上から突き落とす。非道極まりないのに、なぜか滑稽なキャラクターが忘れられないが、このシーンを見て、私は、黒社会というものが、猿山の頂点を目指す哀しき人々の集まりであるような感覚を得た。そこには、レオン・カーフェイの、狡猾で非道なのに、どこか人間的で憎みきれない隙のようなものが大きく関係しているように思えた。本作も同様である。

凄まじい気迫の演技を見せたレオン・カーフェイ
そして、年長のものが、年少のものの未熟さを感じて任せきれないと思うのは、黄徳忠と傅隆生で同じ部分があるのだが、年少者の未来への可能性を信じているか、信じたいのに信じられないのかで、ふたりの生き様が変わってくると描かれていることも、非常に面白かった。
本作は続編を思わせるような謎を残した終わり方を見せていたが、これだけ複雑で魅力的なキャラクターの宝庫である、ぜひとも彼らをもっと掘り下げる作品を作ってもらいたいと思っているのは、私だけではないだろう。
information
シャドウズ・エッジ
ネオンに彩られたマカオ。華やかな街の裏側では、正体不明のサイバー犯罪集団が暗躍していた。警察はなす術もなく、一線を退いた追跡のエキスパート・黄徳忠(ジャッキー・チェン)に頼ることに。彼は若き精鋭たちとチームを組み、最新テクノロジーと旧式の捜査術で、犯罪集団を追い始める。辿り着いたのは、“影”と呼ばれる指名手配犯の元暗殺者(レオン・カーフェイ)。彼を首領とした犯罪集団は、巧みな変装と高度なコンピュータ技術を駆使し、警察の追跡をかわしていく。そして、追跡から15日目。ついに警察は“影”の居場所の特定に成功。しかし、彼らを待ち受けるのは、最悪の罠だった…。
監督:ラリー・ヤン
出演:ジャッキー・チェン、チャン・ツィフォン、レオン・カーフェイ、ツーシャー、ジュン(SEVENTEEN)
全国公開中!























