小島秀夫の右脳が大好きなこと=○○○○⚫︎を日常から切り取り、それを左脳で深掘りする、未来への考察&応援エッセイ「ゲームクリエイター小島秀夫のan‐an‐an、とっても大好き○○○○⚫︎」。第33回目のテーマは「243,913km地球の歩き過ぎ」です。


243,913km地球の歩き過ぎ

2025年6月、コロナ禍と闘いながら、創り続けてきた『DEATH STRANDING 2:ON THE BEACH』(注1)(以下DS2)が、無事発売された。おかげで、プロモーションやワールドツアーなど、例年よりも海外渡航する回数が増えた。“コロナで絶たれた世界をつなぎ直す”、それがツアーのコンセプトだった。ちなみに、今回のワールドツアーで12都市を訪れたのだが、一体、どれくらいの国際便に乗ったのだろうか。

国際便の搭乗回数は行き帰りを含めて、47回。うちプライベートジェットの使用は2回。全飛行距離は243,913kmとなる。地球を約6周した計算だ。勿論、国内出張やプライベートな旅行での飛行機搭乗回数は、ここからは除外している。

ちなみに、人間が生涯に歩く距離は、平均で地球約1周分(約4万km)と言われているので、“地球6周”と言えば、かなりの距離だ。オリジナル・セブン(注2)の一人でもあるウォルター・シラー飛行士が、米国初の有人宇宙飛行計画“マーキュリー計画”(注3)でマーキュリー・アトラス8号に搭乗した際、地球を回った回数と同じになる。

“地球6周”の飛行実績を見返してみた。1月、浜辺美波さんの3Dスキャンをセルビアで収録。2月は、DS2のプレオーダートレーラーの編集があったので、出張は入れないようにしてもらった。3月、ロスでは、打ち合わせと仕込みを行い、その後、テキサスのオースティンで「SXSW 2025」に参加。5月、フランスの「カンヌ国際映画祭」に参加。レッドカーペットと取材、ファティ・アキン監督とのセッション。帰りにコペンハーゲンのニコラス・W・レフン監督の新作映画撮影現場(注4)を見学。6月、ロスの「Summer Game Fest 2025」(注5)に参加。後日、オルフェウム・シアターで北米でのDS2ワールドツアーを開催。帰国後、オーストラリアの「シドニー映画祭」(注6)へ。ジョージ・ミラー監督とのセッション。DS2の発売当日は、朝から東京各地でのサイン会、

、取材。翌朝、パリで欧州のワールドツアー開始。セーヌ川に浮かぶ船内で発売イベント。続けて、ロンドン。「The Outernet」(注7)でのライブ・イベント。一旦、帰国。7月、アジアツアーが開始。まずはソウルへ。ステージ、ファン・イベントを終え、台北でステージ、ファン・イベント。続けて香港へ。複合施設「AIRSIDE」(注8)のポップアップ会場視察やステージとファン・イベント。香港から上海へ。テレビ用ドキュメンタリー撮影と「Bilibili World 2025」(注9)でのステージ。8月、サウジアラビアのリヤドへ。「Esports World Cup 2025」(注10)でのステージ。9月、。10月、ブラジルのサンパウロへ。「Brasil Game Show 2025」(注11)に参加。ステージ、ファン・イベント。帰りにリオデジャネイロに寄り、今年初めての観光。10月末、ワールドツアー最終地、イタリア北西部の城塞都市ルッカへ。「Lucca Comics&Games 2025」(注12)に参加。ステージイベント、ファン・イベント。帰りにオランダのアムステルダムにあるゲリラ・ゲームズ訪問。その後にスウェーデンのストックホルムで打ち合わせ、東京へ帰国。6月からスタートしたワールドツアーは、大きな事故もなく、治安の悪い地域で犯罪に巻き込まれる様なこともなく、飛行機の大幅遅延が2件、欠航が2件、やむなく空港近くのホテルでの延泊が1件という、小さな被害で、全行程を終えた。

これで一年の飛行計画を無事終えることが出来そうだと、“ほっと”一息ついた時だった。気の緩みもあったのだろう。ストックホルムから帰国した翌日、出社前に“ギックリ腰”をやってしまった。しかも、かなりの重症。ソファに座ろうとした際に、身体を少し、捻っただけ。直後は、小一時間、全く動くことが出来ず、着替えさえも出来ない。トイレの便座にも座れない。風呂の浴槽にも入れない。出かけるにしても、車にも乗り込めない。階段は一段ずつ。ノロノロと亀の様に移動することしか出来ない。湿布をはり、コルセットをタイトに巻いて、なんとか午後、会社に辿り着いた。この日も海外からの来客が多く、「腰痛ですから」と、休むことはできない。この日のために、みんな長距離飛行機に乗って来ているのだ。椅子に座ることが出来ないので、常に立ったまま会議や応対を行う。流石に、この夜のアリ・アスターとの会食は断わるしかなかった。レストランの椅子に長時間座るのは厳しい。翌日も、海外からのお客様が待機している。全て、立ったままの対応。しかし、数日後には香港に出張しなければいけない。「Disney+ Originals Preview 2025」(注13)というイベントが香港ディズニーランド・リゾートであり、デスストのアニメ化の発表(ディズニープラスで2027年に配信)をしなければならない。「腰痛」で、キャンセルは出来るはずもない。

片道4時間の機内は、クッションと持参した空気腰枕と痛み止めで耐えた。現地スタッフが、ゲートで車椅子を用意してくれていたのだが、さすがにそれは大袈裟。迎車での移動時の痛みも、クッションと空気腰枕とでなんとか誤魔化した。ゲスト達とのプレパーティー、全員でのフォトコール、発表イベントのステージも、立ったままでOKだった。ただし、現地でのメディア対応、ディナー・パーティーは椅子に腰掛けないといけない。ボディガードに、大きなクッションを持ち歩いてもらい、あらゆる椅子に対応出来るようにしてもらった。

香港から帰っての翌週、次なる飛行先は、台北(「台北金馬映画祭」のプレゼンターを務める)。ところが、僕は飛べなかった。出発直前で人生初のインフルエンザにかかってしまったのだ。ワクチンも事前に接種。かなり神経質に予防していたのに、なんとも情けない。“ギックリ腰”に続いて、インフルエンザとは。

海外出張は12月にまだ残っている。来年には、ワールドツアーはないものの、開発中の『OD』や『PHYSINT』などの3Dスキャン、キャスティング、パフォーマンス・キャプチャーの撮影、収録などが控えている。もしかすると、来年もかなり“地球を歩く”ことになるかもしれない。

僕と同い年の日本人宇宙飛行士で日本人初のISS船長(コマンダー)の若田光一さん(62)は、1回のミッションで地球を何千回も周回するという。とある滞在ミッションでは、5カ月間に地球を2512周もしたらしい。5度のミッションでの通算宇宙滞在日数は504日。宇宙飛行士に憧れてきた僕としては、周回記録という面で、数字をもう少し伸ばしたい。宇宙飛行士に近づくために。

ただ“地球の歩き過ぎ”には、充分気をつけよう。

注1:『DEATH STRANDING 2:ON THE BEACH』 今年6月に発売された、コジマプロダクションによる『DEATH STRANDING』の続編。
注2:オリジナル・セブン 1959年にNASAによりマーキュリー計画に選抜された7名の宇宙飛行士の呼称。
注3:マーキュリー計画 1958年から1963年にかけて6回にわたり有人宇宙飛行が行われた。
注4:ニコラス・W・レフン監督の新作映画撮影現場 西島秀俊や忽那汐里も出演する『Her Private Hell(原題)』。
注5:Summer Game Fest 2025 ジェフ・キーリーがホストを務めゲーム業界の最新発表などが行われる。
注6:シドニー映画祭 オーストラリア・シドニーで毎年開催される国際映画祭。
注7:The Outernet 2022年オープンの、イマーシブ展示で知られるイギリスの複合施設。
注8:AIRSIDE 香港の※※(カイタック/※は「啓」と「徳」の旧字体)空港跡地にオープンした大型施設。
注9:Bilibili World 2025 40万人以上が来場した、中国最大級のゲーム、アニメ、コミックの展示会。
注10:Esports World Cup 2025 24タイトル&25種目の大会が行われた世界最大級のeスポーツイベント。
注11:Brasil Game Show 2025 南米最大規模で行われているゲームの展示会。
注12:Lucca Comics&Games 2025 毎年10~11月に開催されるイタリアのポップカルチャーの祭典。
注13:Disney+ Originals Preview 2025 今後のディズニープラスのオリジナルコンテンツがいち早く発表されたイベント。

今月のCulture Favorite

香港ディズニーランド「アイアンマン・テック・ショーケース」でのアイアンマンとのグリーティング。

ピサの斜塔前で記念撮影。

Profile

小島秀夫

こじま・ひでお 1963年生まれ、東京都出身。ゲームクリエイター、コジマプロダクション代表。1987年、初めて手掛けた『メタルギア』でステルスゲームと呼ばれるジャンルを切り開き、ゲームにおけるシネマティックな映像表現とストーリーテリングのパイオニアとしても評価され、世界的な人気を獲得。世界中で年間最優秀ゲーム賞をはじめ、多くのゲーム賞を受賞。2020年、これまでのビデオゲームや映像メディアへの貢献を讃えられ、BAFTAフェローシップ賞を受賞。映画、小説などの解説や推薦文も多数。ゲームや映画などのジャンルを超えたエンターテインメントへも、創作領域を広げている。

2025年12月16日、コジマプロダクションは創設10周年を迎えました。

開発中の最新作『OD -KNOCK』のティザートレイラーが公開中

『DEATH STRANDING』の劇場アニメプロジェクトが始動!

 『DEATH STRANDING』のアニメシリーズがディズニープラスで2027年に公開!

小島監督が2025年を振り返ったインタビュー記事もCHECK!

今年の動きと次なるフェーズを見つめて。小島秀夫監督のこの一年と、これからと

★次回は、2480号(2026年1月21日発売)です。

写真・内田紘倫(The VOICE)

anan 2476号(2025年12月17日発売)より
Check!

No.2476掲載

免疫力を上げる、温活

2025年12月17日発売

酷暑の夏を乗り越え、あっという間に冬。寒さに慣れる“寒冷順化”する間もない、寒暖差に悩まされるいまの時代ならではの最新温活を大特集!

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物事の修理や人間関係の修復、または周りからの印象を改善することに関係する日です。物に経年劣化や金属疲労があるように、人にも年齢や労働や人間関係による肉体と精神の疲弊が起きます。ストレスにさらされているなら早めの対処が必要ですし、まずは休むことも大切です。十分な休息を取れるように諸々の調整をしましょう。

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