清永卵『かたすみのきおく』1

他人事とは思えない恥ずかしさと親近感が込み上げてきてしまう。初連載作で清永卵さんが描くのは、大人になって振り返るひと夏の思い出、そしてどうかしていた“自分”。


気恥ずかしさが止まらない! 若さしたたる、あの夏の物語

「ちょっと負けてる感じの主人公が好きで、そこから物語を考えていった気がします。過去のことを思い出して恥ずかしい気持ちになったり、いつまでも悩んでいるような、大人になっても思春期を引きずっている人を描いてみようと思いました」

物語は社会人になった住野が、かつて住んでいた鎌倉の海に降り立ち、高校1年生の夏を回想する形で進んでいく。当時の彼はサッカー強豪校に進学するものの、入部早々に脚を骨折。高校生なのに夜な夜な飲み歩く、自暴自棄な日々を送っていた。

「ギプスに松葉杖をついて、見るからに痛々しいのですが、精神的にも身体的にもひとりで立つことのできない状況を表現したかったんです。お酒に逃げるなど、何かに依存せずにはいられなかったんでしょうね」

そんな住野が出会うのが、よく行く居酒屋で働いていた青木という年上の男性。一見爽やかな好青年なのだが、相手の反応はお構いなしにいきなりペラペラしゃべりだしたり、記憶力がやたらと良かったり。学校の担任や父親など周りのつまらない大人たちとは何かが違うように映り、青木に対して今まで感じたことのないような気持ちが芽生え始める。

「住野にとってどういう人ならすごそうに見えるのか、青木のキャラクターについてはかなり悩みました。ただ私の経験ではありますが、何を考えているのかわからない人も、話してみると案外自分と変わらないことで悩んでいたりするので、その印象の落差も描ければと思いました」

風変わりだから気になるのか、それとも…。青木に抱く、はっきりと定まっていなそうな感情が何なのか、読みながら推し量っていく過程がくすぐったい。しかも、会話のとりとめのなさが妙にリアルで、「そうそう、現実ってこうだよね」と頷かずにはいられず、それが気恥ずかしさを感じる一因にもなっている。

「気まずいシーンは、描くのがとても楽しいです。日常でも、返し方に困るときって結構あるじゃないですか。あのときどう言えばよかったんだろうって、後々考えてしまうタイプなので、噛み合わない会話や感情のズレみたいなのをうまく描けたときは、テンションが上がります」

“かたすみのきおく”を掘り起こすのを、やめられない住野。若気の至りはどこまで暴走していくのか…。

「好きなフランス映画の影響もあると思うのですが、舞台は美しいのに、出てくる人は人間くさくて、くだらないことを淡々とやってるような話に惹かれるんです。期待しすぎない程度に期待しちゃう、そんな展開になっていったらいいですね」

清永 卵

Profile

きよなが・たまご 神奈川県出身。「愛とpai」でモーニング月例賞奨励賞を受賞しデビュー。「モーニング・ツー」掲載の短編「SEKI」が話題を呼ぶ。

Information

『かたすみのきおく』1

骨折して挫折を味わっていた住野が出会う、不思議な青年・青木。高校生になって初めて迎えた夏、ケガが治るまでの1か月限定で動き出す、奇妙な関係性。講談社 792円 Ⓒ清永卵/講談社

写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

anan 2470号(2025年11月5日発売)より

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