
10月10日公開の映画『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]』。本作は、『ベイビーわるきゅーれ』などで知られる、阪元裕吾監督の出世作「国岡」シリーズの劇場版第3弾。大学生の頃からの友人でもある阪元監督と、主演の松本卓也さんと伊能昌幸さんに、本作の企画が生まれた経緯からアクションのキモ、シリーズへの思いなど、日頃の関係性を垣間見せつつ、語ってもらいました。
僕が「『国岡』シリーズの新作を撮ろうよ! 」と暴走して言いまくったのが、きっかけ
── 本作の撮影は、松本さんが阪元監督と伊能さんに、「『国岡』シリーズの新作を撮ろう」と言ったことがきっかけだったとお伺いしました。
松本卓也さん(以下、松本) あれは3年ぐらい前かな。その時、国岡ツアーズ(『最強殺し屋伝説国岡 外伝 国岡ツアーズ大阪編〜蘇る金のドラゴン・なにわアサシンの逆襲〜』2022年Blu-ray発売)を撮ることが決まっていたので、大丈夫だとは思ったんですけど、ちょうど監督が『ベイビーわるきゅーれ』とかで注目されていた時期だったこともあり、「これはもしかしたら『国岡』シリーズがなくなるかも…」と心配になっちゃって。自分も30歳手前だったし、キャリアも積めてなかったし、いろいろ思うところがあったんです。
それで、名古屋で3人で飲んでいた時に、僕が「『国岡』シリーズの新作を撮ろうよ! 撮ろうよ!」と暴走して言いまくったら、「じゃあ撮る?」みたいな始動の仕方でしたね。
阪元裕吾監督(以下、阪元) そうやったっけ?
松本 うそ、俺ずっとそうやと思ってた。
伊能昌幸さん(以下、伊能) いきさつは合ってる。

京都造形芸術大学の同級生である3人。10年来の友人だからこその息の合ったトークは、「国岡」シリーズを観ているかのよう。
国岡は自分から何かをするより、巻き込まれるほうが似合うキャラクター
── 今作は、伊能さん演じる国岡昌幸と、松本さん演じる真中卓也のダブル主演です。劇場用「国岡」シリーズ3作目にして、これまで以上に真中にスポットが当たる物語となっています。
松本 「『国岡』を撮るぞ」となった時、楽しみはもちろんありましたが、まさか国岡と並ぶとは思っていなくて…。しかも、阪元監督が真中をいい形で書いてくれたので、シリーズの1作目とか2作目みたいに、お気楽な感じでは出られないというか。「国岡」という作品を背負わなきゃいけないと気が引き締まり、きちんと準備をしようと思いました。

本作で主演の真中役を務める松本卓也さん。
阪元 2作目の『グリーンバレット 最強殺し屋伝説国岡[合宿編]』(2022年公開)が、プロの殺し屋を目指す女性6人の物語で。もちろん彼女たちもよかったんですけど、僕はそのなかにいた国岡と真中という男2人の関係性に、光のようなものを感じまして。自分の中でよく描けたという手応えがあったので、新作をやるなら真中でいいかもと思ったんです。
それに、今作では真中と父親の関係を描いていますが、真中にヤバそうな父親がいるというのは以前から振っていましたし、真中の酒グセの悪さと同じような状況に、僕ら全員が陥っていた時期があるので。30歳を前に、そういったことと向き合う物語は作りやすいなと思いました。
伊能 僕も“真中編”っていうのを、いつかやるべきだろうとは思っていたんです。『龍が如く』で裏切り者かと思っていたサブキャラが、「裏切ってませんでした」みたいな感じで出てきて戦うという展開があるんですけど、真中はそういう感じも似合いそうだなと。そう思っていた時に、松本くんが「『国岡』シリーズの新作をやりたいねん」と言い出したので、「じゃあ“真中編”かね」みたいな空気になったような気がします。
そもそも国岡は、自分から何かをするより、巻き込まれるほうが似合うキャラクターでもあるので。「国岡」シリーズではありますが、国岡自身にスポットが当たる必要はあまり感じていませんでした。
── 今作には、真中の父親・陸斗役の藤澤アニキさん、真中とトラブルになる殺し屋・滝谷ドニー役の沖田遊戯さんなど、クセの強いキャラクターがたくさん登場します。キャストは、どのように探されたのでしょうか。
阪元 まずは、アクションができる人。となるとアクション部畑の人に頼んだほうがスムーズだろうと思い、今作のアクション監督の垣内博貴さんにお願いして、藤澤さんなどを紹介してもらいました。真中の実家でお年玉をくれるおばさん役のクイン加藤さんや、真中の親戚のふみや役の長岡大喜さんは、ワークショップで出会った人です。
あと、沖田さんはもともと芝居を知っていた人。身近で面白い人にお願いできたというところは、恵まれていました。

阪元裕吾監督。
本作では、言語化できる必殺技を目指した
── 「国岡」シリーズといえば、アクションシーンも大きな見どころです。松本さんは今作で、その分量が大幅に増えましたが、大変だったことなどはありますか?
松本 アクションに関しては、撮影に入る前に藤澤さんのアクションスタジオに行って、2日間練習をやらせてもらいました。ラストバトルで冒頭と繋がるキメ技が登場しますが、実は撮影序盤に撮ったので、あまり恐怖心を持たないうちに思い切りできたという感じです。
そもそも垣内さんが僕のレベルを考慮して、真中のアクションを泥くさめに作ってくれたので、なんとかやり切ることができました。
──伊能さんはこれまでも筋金入りのアクションを披露してきました。今作ではバトルの相手が日本刀ということで、シリーズ初ではないかと思いますが、いかがでしたか?
伊能 日本刀はかわしづらくて…。ちょっと説明するのが難しいんですけど、とにかく僕は格闘技をやっていたので、人間の動きから出てくる攻撃の受け方はできるんです。でも、鉄の塊が向かってきて、それを一瞬で翻されるという日本刀のスピード感には慣れなくて、最初は避けるのが間に合わなかったり、避けられても不格好だったりして苦労しました。国岡は銃を持っているんだから、刀の相手と組み合っていないで、離れろやって話なんですけど(笑)。
阪元 でも、説得力があったよね。すごい必死感。
伊能 確かに、必死は必死だったので。

国岡役の伊能昌幸さん。
── ラストバトルには、今年のヒット映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』に登場する必殺技にも似た、印象的なパンチが繰り出されていますが、これは偶然でしょうか?
阪元 『フレイムユニオン〜』を撮ったのは去年だったので、『トワイライト〜』からの影響ではないんですけど、必殺技があったほうがいいのではと思っていました。必殺技って言語化しやすいじゃないですか。
本来、アクションは言語化しづらいものなので、SNSに感想を書かれることがあまりないのですが、必殺技があれば「こういうパンチがよかった」とか、書いてもらえたりするんじゃないかなと。そういう意図もちょっとありました。必殺技といえば、漫画『喧嘩商売』に出てくる「煉獄」という連打は有名だし、『ベビわる』の頭突きも象徴的。『ナイスデイズ』でも、そういう「これで勝った」みたいなものをもう少しやれたらなって思っていたので、今回はそれを目指した感じです。
── ところで、阪元監督は『ベイビーわるきゅーれ』シリーズなどで大活躍をされていますが、大学時代からの友人でもある伊能さんと松本さんは、その姿をどう感じていますか?
松本 こうなるだろうなとは思っていました。学生の頃から、いっぱい賞を獲っていたので。
伊能 僕は「女性2人の映画でハネるんだ」と思いましたけど。学生の頃から考えると、一番撮らなそうな感じだし。
阪元 確かに。でもジレンマはずっとあるんですよね。女性向けに女性2人の主人公の物語を撮ると、女性ではなく男性が見に来るという。逆に、男性の物語を撮ると女性が見に来る。だいたい性別が偏るんですよね。ロジックはわからないんですが…。「国岡」や「ベビわる」はそこのバランスが奇跡的に半々くらいの感じになってくれていて、それが理想だとは思っています。
伊能 誰が見てもおもしろい映画ということが一番なので、理想はどちらにも偏りなく見てもらえたらと。いや、どんな状態でも文句があるわけじゃないんですけど(笑)。


日本映画の片隅に、「国岡」シリーズがずっとあり続けるのも面白い
── 最後に、「国岡」シリーズの今後の展望も教えてもらえますか?
阪元 『グリーンバレット』も『フレイムユニオン』も、「国岡」シリーズの集大成という話ではなかったので、今後も続くと思いますが…。国岡ってメンタルがブレないキャラになっていったので、何を食らったらドラマが生まれるんだろうっていうのは、ちょっと考えどころかも。
松本 師匠編とか?
阪元 あ~、それをやるべきという気がする。
伊能 今作で殺し屋協会が出てきましたけど、『ジョン・ウィック』シリーズみたいに、殺し屋と協会の対立は絶対にやらなきゃいけない、みたいなところもありますけど。松本さん、どう思います?
松本 え、俺?
阪元 そろそろ締めの一言を。
松本 えっと…でもほんまに、こっから「国岡」をすごく大きくしたいっていうよりは、「師匠編やらなきゃね」とか、自由に発言しながら、いろいろ作っていけるっていう環境が、これからもずっと続けばいいなと思います。
阪元 日本映画の片隅に、「国岡」シリーズがずっとあり続けるっていうのも、面白いかもしれませんね。


Profile
阪元裕吾
さかもと・ゆうご 1996年1月18日生まれ、大阪府出身。映画監督。2016年、京都造形芸術大学在学中に制作した『べー。』 で「学生残酷映画祭2016」グランプリを受賞。2022年、『ベイビーわるきゅーれ』で第31回日本映画批評家大賞新人監督賞を受賞。フリーの殺し屋・国岡昌幸(演・伊能昌幸)の日常を追ったシリーズは、映画『最強殺し屋伝説国岡』(2019年)、映画『グリーンバレット 最強殺し屋伝説国岡[合宿編]』(2022年)、Blu-ray作品『最強殺し屋伝説国岡 外伝 国岡ツアーズ大阪編〜蘇る金のドラゴン・なにわアサシンの逆襲〜』(2022年)と今作がある。2026年1月からは監督を務めるテレ東のドラマ25『俺たちバッドバーバーズ』がスタート。
松本卓也
まつもと・たくや 1995年5月19日生まれ、京都府出身。俳優。京都造形芸術大学映画学科俳優コース卒業。おもな出演作は本シリーズのほか、映画『べー。』『ある用務員』『黄龍の村』『東京リベンジャーズ2』など。10月2日から放送中のBS-TBSドラマ『御社の乱れ正します!2』に出演。
伊能昌幸
いのう・まさゆき 1995年10月18日生まれ、熊本県出身。俳優。京都造形芸術大学映画学科制作コース卒業。特技は、アクション、ボクシング、キックボクシング、アーニス(フィリピン武術)。おもな出演作は本シリーズのほか、 映画『べー。』『ある用務員』『黄龍の村』、『辰巳』など。
Information

『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]』
阪元裕吾監督が、フリーの殺し屋・国岡昌幸(伊能昌幸)の日常を追う、モキュメンタリーシリーズの最新作。今作でおもにカメラが捉えるのは、シリーズの常連・真中卓也(松本卓也)の姿。殺し屋としては二流、酒に逃げてはトラブルを起こし、挙句の果て父親に実家に連れ戻されてしまう。実は、その父親は、京都殺し屋ランキング元祖1位のスゴ腕で…。シリーズの醍醐味であるアクションとユルい会話劇は、パワーアップしてもちろん健在。包容力抜群の国岡との友情や、父親を倒すための猛特訓などによって、真中はダメな自分を克服することができるのか!? 監督・脚本/阪元裕吾 出演/松本卓也、伊能昌幸、上のしおり、大坂健太、Rio、沖田遊戯、藤澤アニキほか 10月10日より池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿ほか全国順次公開。
©「フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]」製作委員会