原作・田中康弘 漫画・水谷 緑『山人が語る不思議な話 山怪朱』2

多くの恵みをもたらす一方、畏怖すべき存在として崇められる山々。原作は山に生きる人々が遭遇した、奇妙な体験を聞き集めた怪談話。その新シリーズのコミカライズを『こころのナース夜野さん』などで知られる、水谷緑さんが手がけている。


熊、幽霊、雪男、神様…。山という“異界の地”での体験談

「精神科関連のマンガを7年ほど描いてきましたが、全然違うジャンルに挑戦してみたくなったんです。編集さんから怪談を勧められたときは意外でしたが、そういえば子どもの頃、山岸凉子さんの『ゆうれい談』の真似をして、友だちから聞いた怖い話をマンガにしていたんです」

実体験ゆえに、わかりやすいオチのある話はむしろ少なく、説明のつかない不気味さが余韻を引きずる。

「フィクションのホラーではないので、演出しすぎないように気をつけています。山で普通に見かけたり、すれ違ったりした人が、あとから幽霊なのだと気づいてゾッとするような話も多く、あくまでも日常であり得そうなこととして描いています」

マンガにするにあたり、文章からは読み取りにくいディテールを、原作者の田中康弘さんにその都度確認。さらに可能な範囲で体験者からも直に話を聞いたり、その地域に出向いて追加取材を行っている。

「実際に足を運んで感じた土地の雰囲気や、マタギのような山人ならではの生命力の強さも表現できればと思っています。林を歩きながら『幽霊が出た場所はここです』と言われ、急に怖くなったりもしますが(笑)。原作にはない後日談を思いがけず聞けるのも、ありがたいですね」

心の問題を扱ってきたこれまでの作品とは、一見かけ離れている。しかし自分でコントロールできないもの、あるいは科学的には解明しきれていない不可解な存在・事象との向き合い方という意味では共通点も。

「たとえば庶民の困りごとに答えてくれる“拝み屋”や“カミサマ”と呼ばれる人や風習は、精神科医のような役割を担っているともいえます。不思議な出来事を狐や狸などのせいにして深く追求しないのも、生きる知恵ですよね。人知を超えた“そういうもの”として、考えないようにするのも大事なのだと感じました」

怖い話は好きだけど、怖がりだという水谷さん。「いまだに夜には描けません」と苦笑するが、恐怖心を煽るだけではなく、山の畏れ多さや得体の知れなさ、共存してきた人たちのたくましさが伝わってくる。

「日本全国いろんな地域で、山に関わっている人の話が出てくるのですが、まったく違う場所なのによく似た現象があるのも不思議です」

怖くて郷愁をそそる民話に耳を傾けるように、ページをめくろう。

Profile

水谷 緑

みずたに・みどり マンガ家。『まどか26歳、研修医やってます!』『大切な人が死ぬとき』『被害者姫 彼女は受動的攻撃をしている』など著作多数。

Information

原作・田中康弘 漫画・水谷 緑『山人が語る不思議な話 山怪朱』2

猟師、森林管理人、山小屋で働く人など、山に生きる人たちが遭遇した、不思議でときに恐ろしい体験。現代の遠野物語といわれる人気シリーズをマンガ化。小学館 770円 Ⓒ水谷緑/小学館

写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

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