30代凸凹カップルの世知辛いけど、かけがえのない日々を描く『若草同盟』

エンタメ
2024.12.13

『あそびあい』『恋のツキ』で、はみ出しながらも共感せずにはいられない女性を描き、読者の価値観を揺さぶってきた新田章さん。「恋愛のことは前作までで出し切ったから」と語る5年ぶりの新刊となる本作も、やはり大いに翻弄される物語だ。

ふたりでいれば無敵のはずが…凸凹カップルのままならない人生。

「親ガチャっていう言葉が世の中に浸透してきたとき、それを言い訳にして生きるのはつまんなくないか? と思ったんです。もちろん“ハズレ”には程度があるので一概には言えませんが…私は貧乏な家庭で育って色々ありました。とにかく親に頼らない! と割り切り、たくましくなれたつもりです。そうやって考えられる、どちらかというと強い人間と、繊細で弱い人間の凸凹コンビを描こうと思いました」

生活保護を受給する祖父母に育てられた冴木(さえき)カイロは、周りから常に浮いていたものの、明るく意志の強い女性。上京してスーパーの店員として働き、自立という最大の自由を手にし、生まれ変わった気分で暮らしていた。一方、スーパーの常連だった羊野(ようの)アユム(ムーさん)は、会社でパワハラを受けながらも退職できず、ストレスフルな日々を過ごす。

「ムーさんは根が真面目ゆえに、楽に生きられない人。自分には何もないって思ってるから、不要な自己嫌悪に陥ってしまっているんです」

カイロと比べたら、ムーさんの家庭環境はごく普通で、何の不自由もなさそうなのだが、あくまでそれは他人の尺度。親や社会から押し付けられる「男らしさ」に、彼なりにずっと苦しんでいた。孤独に生きてきたふたりは、やがて恋人になって同棲を始め、これ以上ない味方を得るのだが、それでもままならないのが人生。心地よかったはずの凸凹が、次第に噛み合わなくなってしまう。

「物事を簡単に切り替えられないムーさんはゆっくり行きたいのに、カイロはどうしてもすぐに進みたがっちゃうんですよね。そもそもカイロは、今まで身内以外に寄り添ってもらったことがほぼないから、ムーさんにどう接すればいいかわからないんです。カイロの言動は、自分への戒めとしても描いています」

ひりひりする心理描写は今作でも健在。ただし本人は「本当は穏やかな話を描くつもりだった」と笑う。

「自分が何かしら世の中に伝えようとすると、『なにくそっ!』って気持ちが出てきちゃうんですよね。人生は理不尽なことが起こり続けるものだから、ふたりにはどうにか乗り越えていってほしいですね」

PROFILE プロフィール

新田 章

にった・あきら マンガ家。青森県出身。2008年、読み切り短編「くすりをたくさん」でデビュー。『若草同盟』はマンガサイト「SHURO」で連載中。

INFORMATION インフォメーション

新田 章『若草同盟』1

最高の理解者と出会い、最強の幸せを手に入れたものの、それでも人生は山あり谷ありで。30代カップルの世知辛いけど、かけがえのない日々を描く。小社刊 880円 Ⓒ新田章/マガジンハウス

写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

anan 2426号(2024年12月11日発売)より

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