女優マリリン・モンローを、新たな視点で読み解くエンパワーメント小説。
「コロナ禍が始まる前から、マリリンを軸に書きたいとは思っていたんですね。大きなきっかけは、作中にも挙げた田中美津さんの『いのちの女たちへ とり乱しウーマン・リブ論』です。この本を読むまで、マリリンをフェミニズム的な文脈で捉えたことがなかった。女性解放運動が活気づくのはマリリンの死後なのですが、彼女がもう少し長く生きていたらフェミニズムで救われたかもしれないと思ったんです」
山内さんは、杏奈に思いを託す。杏奈は、3年生から履修した〈ジェンダー社会論演習IV 松島ゼミ〉でジェンダー学やフェミニズムを学ぶ。マリリンという女性とその時代についての考察を深めていくと…。
「私も誤解していたのですが、実際に調べてみたら、本名のノーマ・ジーン時代にお金のために撮ったヌード写真スキャンダルに対して毅然と立ち向かったり、#Me Too運動を彷彿させるセクハラの告発をしていたり。いろいろな意味で、マリリンこそが誰よりも早くフェミニズム的な行動を起こし、発言していた“先駆的な存在”だったんです。実は、時代が追いついていなかっただけなんですよね」
山内さんは、女性解放運動のパイオニア、グロリア・スタイネムの『マリリン』や、評伝を多く手がけるエリザベス・ウィンダーの『マリリン・イン・マンハッタン』(未邦訳)なども読んだ。マリリンの実像を知るのに役立ったという。
物語をどんなふうに締めくくるかは悩んだ。
「何が美しいエンディングとなるかはやはり時代によって違うと思うんですが、いまならこうかなと。杏奈が送った最初の2年は、新しい出会いや経験、そこから得られるものが極端に制限された大学生活でした。いわば、しけた日常だったかもしれませんが、一方ではマリリンを介してたくさんのことを追体験したともいえます。没入の具合によっては、机上で触れた世界も、豊かでかけがえのない体験にできると思います」
山内マリコ『マリリン・トールド・ミー』 アンチフェミの莉子、社会人枠で入学した志波田、女性ばかりのゼミの黒一点的存在の流星や翼など個性派が集い、物語を盛り上げる。河出書房新社 1870円
やまうち・まりこ 作家。1980年、富山県生まれ。2012年にデビュー短編集『ここは退屈迎えに来て』を刊行。『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』ほか著書多数。
※『anan』2024年7月10日号より。写真・森山祐子(山内さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)