ゆっきゅん×金原ひとみ「これだけは楽しいってものがあるのって強い」

エンタメ
2024.05.30
大好評の対談連載「ゆっきゅんのあんたがDIVA」。作家の金原ひとみさんをお相手に迎えたおしゃべりも、ついにラストです(過去回もぜひお読みください…!)。今回は、お互いの小説執筆、作詞作業のことについて、お話しました。

現実が実人生だけだったらきっと耐えられない。

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ゆっきゅん(以下、ゆ):私、一般的な人が抱えてる課題みたいなものから降りてるから、年齢ごとの苦労とかよくわからなくて。

金原ひとみ(以下、金):私もそこから脱却してるんですよね。小説を書いているせいかもしれないけど、現実が絵空事というか、地に足がついていないところがあって。臓器が捻れそうなほど泣いたり喚いたりしてても、どこかで小説のネタとして捉えてるところがあって。あまり誠実に現実と向き合ってないんじゃないかな、と思ったりもします。

ゆ:現実に起きていることや、それへの向き合い方が小説になってるってことですよね。

金:そうですね。私の場合はすべてが小説につながっていくから。創作と実人生が編み込まれちゃってる感じがする。実人生は俯瞰して眺めている感じがします。

ゆ:自分を見つめる客観性が、どの作品にもありますよね。鋭くて冷たくて、それでいて熱い。

金:私は小説世界があることでなんとか生きてこれたんです。現実が実人生だけだったら絶対耐えられなかった。

ゆ:金原さんは小説を書き始めたのも早かったんですよね。

金:小6の時ですね。いくつか書いていくうちにこの仕事でやっていきたいなって思ってました。

ゆ:日記とかは書いてました?

金:それは今でも全然ダメ。

ゆ:私も(笑)。私の場合はただの怠惰でなんですけど、出来事をただ書くのってつまらなくて。考えてることを書いてみても、1年後に読み返したら、どこに行って何をしたかがわからない(笑)。

金:いや、どこで何をしたかより考えを書くほうが絶対大切です!

ゆ:勇気をもらいました(笑)。じゃあ、金原さんは最初からフィクションだったんですね。

金:そうですね。私、エッセイの依頼がきても小説と同じ感覚で書いちゃう。エッセイだと思うと途端にチューニングが狂っちゃって。やっぱり小説と同じ視点のほうが書きやすいんです。

ゆ:それでいうと私、たまに文章を書く仕事もしているけど、自分の考えは歌詞にするのが一番しっくりくる感じがします。散らかった思考を説明なしで書けるのが気持ちよくて。私にとって作詞って、すごく自由なんですよね。

金:それめっちゃいいですね!

ゆ:作詞だけは楽しい。

金:これだけは楽しいってものがあるのって強いですよね。素敵!

ゆ:いや、もうちょっと楽しいこともあるかも(笑)。でも、現段階では作詞が一番楽しいです!

かねはら・ひとみ 1983年、東京都生まれ。作家。2003年『蛇にピアス』(集英社)ですばる文学賞を、翌年に同作で芥川賞を受賞。若い読者を中心に絶大な支持を受ける。近著に『腹を空かせた勇者ども』(河出書房新社)、『ハジケテマザレ』(講談社)。

ゆっきゅん 1995年、岡山県生まれ。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。2021年からセルフプロデュースで「DIVA Project」をスタート。インスタ、Xは@guilty_kyun

※『anan』2024年5月29号より。写真・幸喜ひかり 文・綿貫大介

(by anan編集部)

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