鈴木敏夫を創ったものとは? 来て観てわかる、本とジブリ作品との深い関係。
「メインの仕事はプロデューサー業ですが、鈴木さんの書いたキャッチコピーがセリフになったり、書いた文字がそのままタイトルになったり。時には絵コンテも自ら描くなど枠にとどまらない方。果たして頭の中はどうなっているのか。鈴木さんの内部に入り旅をしながら鈴木敏夫の全体像を見ていきたいと思いました」
と本展のアートディレクターを務める小松季弘さん。会場では少年期、青年期、徳間書店時代、ジブリを設立してから現在に至るまでの道のりをたどりながら、当時の鈴木さんが何をどうインプットし、アウトプットにつなげていったか、脳内変換の道筋を探る。そして展示の最後を飾るのは、約8800冊の蔵書を再現したという高さ約3mの大本棚。
「ラインナップは『少年画報』など少年少女向けの漫画雑誌から、『赤毛のアン』などの児童文学、それから小説、ノンフィクション、詩集、評論、人類学や社会学の本、歴史本にいたる幅広いジャンルがあります。本棚を見るとわかるのは、手塚治虫さん、杉浦茂さんの漫画をこよなく愛していたり、音楽にも造詣が深く、荒井由実さんが大好きだったり。美術にも詳しく、落語もお好き。キリスト教など宗教に関することも、若い頃から勉強されていたようです」
驚くべき多趣味、博覧強記ぶり。
「とはいえ全部自分から読み始めたわけではなく、高畑勲・宮﨑駿両監督の影響も大きい。『この本読んだよ』と聞くたび鈴木さんの本棚に高畑さん、宮﨑さんが持つ本が増えていき、それが血肉となり3人の体内に膨らんでいった。だから鈴木さんの本棚は実は高畑さんの本棚でもあり、宮﨑さんの本棚でもあるのです」
なかにはジブリ作品のキーワードになった本も多数潜んでいるとか。本棚の展示空間は鈴木さんの隠れ家兼事務所の一室を再現。ウィリアム・モリスの壁紙が貼られ、本の隙間にはフィギュアやおもちゃが。居心地のよさと遊び心、まるでご本人を彷彿とさせる空気が漂っている。
そのほか、漫画雑誌をすべて捨てずに部屋に溜め込み、繰り返し読んでいたという少年時代の四畳半を再現した展示も見どころの一つ。ジブリ作品の名ゼリフを鈴木さんが書に書き、立体にしたものを空中から吊り下げたゾーンもセリフの力強さが改めて蘇ってくる。
「『次の新作はこういうふうに作るんじゃないかな?』、そんな予感をさせてくれる展示になっていると思います。ぜひ会場に足を運んで想像をふくらませてみてください」
大好きなトトロと記念撮影。
『となりのトトロ』でサツキが初めてトトロに出会ったバス停のシーンを再現したフォトスポットで、トトロや小トトロといっしょにパチリ!
大迫力のおみくじコーナー。
湯婆婆と銭婆の口からおみくじが飛び出す! リアルなサイズ感の湯婆婆たちの頭部は迫力満点。開くと鈴木さんからの嬉しいメッセージが。
名プロデューサーを育んだ約8800冊の本が一堂に。
鈴木敏夫さんの隠れ家「れんが屋」を再現した空間に圧巻の約8800冊がずらり。一部は手に取って見ることもできる。『千と千尋の神隠し』に登場するカオナシが読書中。※写真は2022年4~6月に開催した京都展のもの。
『千と千尋の神隠し』のあの建物が目の前に。
『千と千尋の神隠し』に登場する湯屋「油屋」をモチーフにした「油屋別館」が登場。冷やし足湯が楽しめるチケットも数量限定で販売中。※画像はイメージ。
鈴木敏夫とジブリ展 東京・天王洲 寺田倉庫 B&C HALL/E HALL 東京都品川区東品川2‐1‐3 開催中~9月7日(水)10時~20時(入場は19時半まで。1時間ごとの日時指定入場制) 無休(休館日が発生する可能性があります) 一般1800円ほか TEL:050・5533・0888(平日12時~15時)ⒸTS ⒸStudio Ghibli
すずき・としお スタジオジブリ代表取締役プロデューサー。1948年、愛知県名古屋市生まれ。大学卒業後、徳間書店入社、『アニメージュ』の編集長を務める。’85年、スタジオジブリ設立に参加。’89年以降、ジブリのほぼすべての劇場作品をプロデュースしている。撮影:荒木経惟
※『anan』2022年7月13日号より。取材、文・松本あかね
(by anan編集部)