「自分らしさはなくてもいい…と言ったら矛盾するかもしれませんが、体の中の細胞が毎日生まれ変わるように、自分というものは常に変わっていくものだと思っています。私はすごく頑固なので(笑)、自分に対してこうでなくちゃいけないとか、こう在ってほしいと思うことで、自分自身が辛くなり悩んだ時期がありました。そのときに好きな本を読んだり、人と話をしていくうちに、自分の外側にあるすべてのものを取り払っても、イシヅカユウという人間は死ぬまで在り続けるんだと思うようになって。そう考えると、自分の周りもその時どきで心地よいものを選べばいいと、ふっと肩の力が抜けたんです。この感覚もまた変わるかもしれないけれど、今はそう考えています」
――本、音楽、映画などに影響を受けてきたというイシヅカユウさん。大切な作品にたくさん出合ってきた。
「昔の雑誌や本、写真集や絵本が好きで、何度も読み返します。疲れたときは、何も考えずにぼーっとする時間も作りつつ、自分自身を奮い立たせるために好きな本や映画を観る時間も大切にしています。何度も救われてきましたね。その時どきで見てきたもの、読んできたものが自分の中に蓄積されていて、それも自分らしさを作るひとつの軸になっていると思っています」
――好きなものから受けた影響は、現在の仕事へとつながっている。
「服飾が学びたくて、専門学校に進みました。服を着ること、それを表現することが好きなので、今のモデルの仕事は自分の中で大事なものです。毎回違う服を着て、メイクをして自分の外側がどんなに変化しても、自分というものが変わらずに在ることを確認できる。自分の芯の部分が浮き彫りになる気もします。今はモデルがメインですが、俳優の仕事もおもしろいです。色々な作品を見ていて思うのは、どんな役でも、どんな服を着ていたとしても、俳優さん本人そのものを感じさせてくれる方って素敵だなと思うんです。ファッションを楽しもうと観始めた映画でも、結局そういう視点で観てしまって(笑)」
――MtFとして、雑誌やテレビなどで発言する機会も増え、代表的な意見を求められ期待される中で、自身で心がけていることがあるという。
「私の意見や経験談は、あくまで個人のもの。私がMtFとして発言することで、MtF全体の意見や考えとして捉えられてしまうこともあります。一人ひとり違う意見を持っているのに、カテゴライズされてしまう。それは違うというスタンスを常に伝えていかないといけないと思っています。MtFは、すごくプライベートな自分の体と心のことなので、わざわざ周りに言わなくてもいいですし、だからこそ、こうしてメディアに出ている人も少ない。MtFではなくても、もっと少数派のセクシュアルマイノリティの人もいます。そうして少数になるほどひとつの意見がすべての意見となる可能性が高いので、そうならないよう気をつけていますね」
――そういった心配りも慎重にしながら、“自分”を伝える理由とは。
「私に興味を持ってくれたり、話を聞いてくれる人たちが、自分のことを縛らず、このままでいていいんだと思ってくれたら嬉しいです。こうして話している時間もそうですが、一緒にいる人にありのままでいてもらえたら、私自身も心地よいから。“自分らしさ”は、お互いを尊重するためにあるものなのかなと思うんです」
イシヅカユウ モデル、俳優。1991年生まれ、静岡県出身。ファッションモデル、俳優。雑誌やCMなど様々な媒体で活躍。主演映画『片袖の魚』が公開中。インスタグラムは@yu_ishizuka
※『anan』2021年10月13日号より。写真・角田 航 取材、文・菅原良美(akaoni) 撮影協力・BACKGROUNDS FACTORY
(by anan編集部)