――現在の狂言風のネタにたどり着くまでは、全然違った芸風だったとお聞きしました。
三島達矢:元々はトリオでやっていたんですけど、ひとり抜けて、’11年にコンビになりました。最初は「みなみのしま」というコンビ名で、パイナポー南條&ライチ三島と名乗りアロハシャツを着て、王道のコントをやっていたんです。
南條庄助:でも、それがほんとに鳴かず飛ばずで…。
三島:ふたりとも30歳手前になる頃に「もう誰もやったことのない変わったことをやるしかないやろ」ということになって、今のネタの原型が生まれました。最初は1分くらいのネタでしたが、それがお客さんにめちゃくちゃウケたんです。その場に一緒に出演していたミルクボーイの駒場さんに「それ本ネタにしたほうがいいよ」とアドバイスいただいて。
南條:そこから思い切って大きく舵を切り、すぐに着物を買いに行って、扇子買って小鼓買って、だんだんと今の形になりました。
三島:それから3年間くらいはコントをやっていたんですが、一度単独ライブで1本だけ漫才をやってみたら、手応えがあって。だんだん漫才にシフトしていきました。でも、そんな中で、ずっとこれでやっていけるのかな? という疑問もあって。
南條:1回世に出ないとマズいのではと思って、M‐1に挑戦してみようということになりました。
――ちなみに、コンビ名を決める際に、名前の候補を10個紙に書いて餌をつけ、大宮の氷川神社の鯉に選んでもらったという噂は本当なんですか?
三島:本当です。和風の名前ばかり10個候補を考えて。でも、氷川神社の鯉は餌やり禁止だったので、実際は、近くの公園の池の鯉にお願いしました。それで一番最初に食いついたのが「すゑひろがりず」でした。
南條:いま考えると、その改名がかなり大きかったですね。
三島:「みなみのしま」では、カレンダーなんて出せなかった(笑)。
古い言葉を学ぶよりも、流行りものを押さえる。
――元々古典芸能はお好きだったんですか?
三島:いや、全然そんなことはなくて、完全に我流なんです。
南條:日本史は好きでしたけど、古典芸能に詳しいとかは一切ないです。
三島:でも、僕たち何となく和の空気が漂っているというか…、「洋」か「和」かだったら、完全に「和」のほうのルックスじゃないですか(笑)。
――でも、TVのバラエティなどで、現代語から狂言言葉への変換をポンポンとされていますよね?
南條:いや、あれは、いいやつを使ってくれてるだけです(笑)。実際は失敗も多い。でも、いろいろ蓄積されたおかげで、普通の人よりは昔の言葉を知っているかもしれないですけど。
三島:古い言葉の勉強をするより、むしろ、いま流行ってるものは何なのか知っておかんとな、という意識はあります。『鬼滅の刃』とかNiziUとかチェックしておかないと、とか。これをどう言い換えられるかな、と考えながら見てます。
――突然ですが…「アンアン」を狂言風に変換することってできますか?
三島:うーん…やっぱり「あむあむ」かな(笑)。
南條:アンアンってどういう意味なんだろ。フランス語なんかな?
――パンダの名前なんです。
ふたり:えっ!? あっ! 表紙にもパンダのマークが入ってるんや。
三島:「南無南無」もいいかも。
南條:漢字でね。でも、思想感が強くなっちゃうかな(笑)。
――ありがとうございます(笑)。先日YouTubeで公開された「香水」の狂言風カバーの歌詞も話題になりましたね。
南條:あれは、歌詞の提出締め切りを完全に忘れていて…夜中の3時頃に急に思い出したんです。そこからほんとにサササッと短時間で書き上げたものが採用されました。あんまり考えすぎずにストレートにいったのがよかったのかもしれないです。あの動画は、ちゃんとスタジオで録音したりと、今までで一番力を入れて作ったかも。
すゑひろがりず 2011年結成のお笑いコンビ。2019年のM‐1グランプリで決勝に進出。ボケ・扇子担当の三島達矢(右)、ツッコミ・小鼓担当の南條庄助(左)ともに、1982年生まれ、大阪府出身。YouTubeチャンネル「すゑひろがりず局番」は登録者数約34万人。『バイオハザード RE:2』『あつまれ どうぶつの森』などの狂言風ゲーム実況で人気を集める。
縁起のいい言葉やポーズがたくさん詰まった日めくりカレンダー「すゑひろがりずのまいにち寿!!」(リベラル社)が絶賛発売中。このために撮り下ろした人気ネタから新作ネタまで31日分の写真は必見。YouTubeチャンネル「すゑひろがりず局番」で先日公開された、瑛人さんの「香水」の狂言風カバー「香の物」も話題となった。
※『anan』2020年12月16日号より。写真・中島慶子
(by anan編集部)