
弘中綾香さん
アナウンサーとして多方面で活躍する傍ら、自身の考えや生き方を綴ったエッセイも好評な弘中綾香さん。本書で自らの妊娠・出産をテーマにした理由を、「自分のための備忘録のような感じでした」と語る。
「初めての体験だから、忘れないようにとりあえず書き留めておこうと。出版の予定があったわけではなく、書いている途中にお声かけいただいたので、“誰かに何かを伝えよう”という気概は特になかったですね」
その言葉通り、本書で語られる心情は驚くほど率直だ。検査キットの陽性反応を見て「マジか」の3文字が頭に浮かんだというエピソードや、出産当日の状況を記録したレポートからは弘中さんらしい冷静な視点を感じる一方、産休中の孤独感や子育てのプレッシャーに戸惑い、焦りを覚える様子も克明に綴られる。
「これまでの私は、問題が生じると誰かに相談したり行動したりして、解決に向けて即座に動いてきたんです。でも、今回に関しては自己解決できるものではなくて。ホルモンバランスの乱れで自分が自分じゃなくなり、少しのことで落ち込んだり、イライラしたり。時間の経過をただ待つしかなく、自分では変えられないことがあるという現実に人生で初めてぶち当たった感じでした。でも、その経験のおかげで多少は謙虚になったと感じる部分も。しんどい思いをされている方に心を寄せることができるようになり、親に対しても感謝しなきゃいけないなと思うように。30歳を過ぎてこんなことを言うのも恥ずかしい限りですが…(笑)」
出産後の心境の変化を「OSを入れ替えたよう」と表現しているが、変わらない部分もあるという。
「娘は可愛い。でも、私はやっぱり自分の人生が大好きなんです。母である自分も大事だけれど、社会の一員である“弘中綾香”という生き方も絶対に捨てたくないんだと改めて感じて。とはいえ、実際は時間的に厳しいのも事実。なので、あまり良いことではないかもしれないけれど、満点を目指さないことにしたんです。80点で大満足、むしろ60点くらいを目指そうと。もちろん会社や保育園、家族の助けがないと生活が回らないので、私が2つの生き方を両立できているのは皆さんの協力があってこそだと日々実感しています」
出産から2年余り経ち、「最近は子供を可愛いと思える心の余裕ができてきて、これから子育ての楽しい面を知っていけたらと思っているところ。そう考えると、ようやくスタートラインに立てた気がします」と、弘中さん。「たぶん、ターニングポイント」と語る時期を越え、人生の新たな章へと踏み出した彼女が経験した心の揺れ動きは、出産の経験がない人でも共感する点が多いはず。
「自身の無力さを知り、世界の見え方が変わるほど大きな出来事に直面した一個人の成長記録として、年齢や性別を問わず幅広い方に読んでいただけたらと思っています」
Profile
弘中綾香
ひろなか・あやか 1991年2月12日生まれ、神奈川県出身。2013年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとして多くの番組のMCを担当。文筆業でも活躍しており、「Hanako Web」にて“弘中綾香の「純度100%」”を連載中。
information

『たぶん、ターニングポイント』
育児を通して得た実感や仕事復帰への思いなど、初の妊娠・出産を経験した弘中さんが「心身ズタボロになった」先に見えた本音をありのままに綴ったエッセイ。朝日新聞出版 1540円
anan 2482号(2026年2月4日発売)より


















