『羅小黒戦記』の物語をより深く理解するためのヒントを中国文化に詳しい、小説家・千葉ともこさん、ライター・沢井メグさんに伺った。

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    『羅小黒戦記(ロシャオヘイせんき)』とは?

    黒猫の妖精・シャオヘイがムゲンと出会い、師匠として慕うようになるまでを描いた映画『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』が2020年に吹替版で公開。異例のロングランヒットを記録した。

    その5年後の昨年、映画『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』が公開され更に人気が沸騰。映画では新たに登場した姉弟子・ルーイエと共にとある調査に乗り出すシャオヘイの冒険が描かれる。

    同時期に放送されたTVアニメ『羅小黒戦記』では、映画より少しだけ成長したシャオヘイが登場。黒猫の姿で人間の少女・シャオバイに拾われ、人間と交流しながら成長する様子を見ることができる。

    『羅小黒戦記』の解像度を上げるポイント

    『羅小黒戦記』は人と妖精が共生するというファンタジーではあるものの、中国で制作されているだけあって建築物や食べ物、衣装、風習などに現地の文化が色濃く反映されている。『羅小黒戦記』の物語をより深く理解するためのヒントを中国文化に詳しいおふたりに伺った。

    Profile

    千葉ともこ

    2020年、『震雷の人』で第27回松本清張賞を受賞し小説家デビュー。2022年、『戴天』で第11回日本歴史時代作家協会賞新人賞を受賞。昨年12 月に『飲中八仙歌 杜甫と李白』を上梓した。

    沢井メグ

    大学時代に中国語に魅了され、2011年よりライター活動を開始。執筆参加に『中華BL小説ガイドブック』。『中国妖怪大全』など訳著多数。『藍渓鎮 羅小黒戦記外伝』5巻の翻訳も担当した。

    中国における妖精は、ほぼ“妖怪”

    『羅小黒戦記』に登場する妖精たちは、いわゆる西洋的なフェアリーとは完全な別物。

    「基本的に中国の文化においては自然の化身を“妖精”や“妖怪”と表現し、人間に悪意のないものを前者、そうでないものを後者とすることが多いです。『西遊記』の牛魔王も日本では妖怪に分類されますが中国では妖精と見なされることも。またいわゆる“妖狐”も中国では妖精とされます」(沢井さん)

    「木・火・土・金・水の5つの要素で自然界の万物を分類するという中国の五行思想があって、それらの能力を操る妖精も活躍します」(千葉さん)

    妖精と人間、そして仙人とはどういうものか

    人間は妖精になることはできないし、妖精が人間になることもできない。ただ、人間も妖精も修行することで地仙(俗世で暮らす仙人)になることはできる。

    「人間と妖精の他に仙人と神の概念があるのが『羅小黒戦記』の世界。動植物にも霊魂が宿るという太古のアニミズム的な思想もベースになっているのでは」(千葉さん)

    「『藍渓鎮 羅小黒戦記外伝』5巻にはムゲンが仙人になるシーンが登場します。人間だった頃のムゲンは白髪ですが、仙人は姿を変えることができるので肉体的に全盛期だった若い頃の姿なのかもしれません」(沢井さん)

    師弟の関係の深さ

    ムゲンに屈託のない笑顔を向けるシャオヘイと、シャオヘイの身を案じてあえて厳しい修行を課しつつ精一杯の愛情を向けるムゲン。ふたりの心温まる関係性にほっこり。

    「最初はムゲンに反発していたシャオヘイが、映画1作目のラストでは『師匠!』と言って抱きつくほど大好きになっていて、師弟関係の深さがよく表れています」(沢井さん)

    「中国では師弟の関係はかなり厳格。誰もが門下に入れるものでもないので、シャオヘイを『最後の最後の弟子』として受け入れたムゲンにルーイエがムッとした表情を見せたのかもしれません」(千葉さん)

    ナタという最強の存在

    作中では館の三大創始神のひとりだが、モチーフとなっている※※(那の異体字/咤の異体字)は道教の護法神で、乾坤圏という金色の円環を武器に戦う少年の姿で描かれることが多い。

    「『西遊記』『封神演義』をはじめいろんな創作物にひっぱりだこのスーパースター的な神様。お団子ヘアでヒラヒラした布を着けていたり、アイテムの風火二輪で空を飛んだりするのが特徴です」(千葉さん)

    「中国ではヤンチャな男の子というイメージが強くて、昨年は『ナタ 魔童の大暴れ』という映画も公開されました」(沢井さん)

    妖精会館に見られる地方色

    中国大陸を思わせる雄大な景色も『羅小黒戦記』を観るうえで楽しみなポイント。特に、さまざまな場所に置かれている会館は、気候も建築様式も多種多様。

    「ルーイエとシャオヘイが訪れる館に円筒型の建物が登場しますが、あれは福建土楼ではと思ってテンションが上がりました。いかにも仙人が出てきそうな山が見える景色は桂林ぽいなとか、会館ごとにモチーフになっている場所がありそうです」(千葉さん)

    「浙江省には蒼南会館(そうなんかいかん)の元と想定される蒼南県があって、聖地巡礼で訪れる人も多いです」(沢井さん)

    もぐもぐシーンの食事の魅力

    食いしん坊なシャオヘイが訪れる先々でおいしそうにごはんを頬張るシーンも『羅小黒戦記』の見どころ。

    「シャオヘイたちが妖精会館を巡る中で、ごはんが一番おいしいと言われていたのが“粤東会館(えっとうかいかん)”。粤東は実際に中国の広東省の一部を指す名称でもありますが、粤東会館で出された料理も広東風に見えましたね。エビの蒸し餃子の入った蒸籠(せいろ)や大ぶりな魚がどーんと出されておいしそうでした。広東料理は味付けがあっさりとして和食に近いので、日本の人が粤東会館に遊びに行っても、きっとおいしくいただけると思います」(千葉さん)

    キャラクター、スタッフの愛情ある関係

    作品全体に漂う温かさは、作り手の作品に対する愛情の証し。どのキャラクターにも愛を感じられる。

    「『羅小黒戦記』はスタッフ同士の絆も強いんです。それに制作陣の作品に対する愛、キャラクターへの愛が感じられるから、観ていてより感動が深まるし、安心しておすすめできます」(沢井さん)

    「どのキャラクターも作品にとって都合のいいピースとして描かれていないんですよね。ひとりの意志を持ち、感情を持つ存在として描かれているから、全キャラクターに愛着が生まれます」(千葉さん)

    老若男女問わず、響くものがある

    さまざまなメディアで描かれる『羅小黒戦記』だが、普遍的なテーマを持っているのも多くの人に受け入れられる要因のひとつ。

    「映画の1作目では自然との共生を、2作目では仲間の絆が描かれていますが、どんな世代の人にとっても、どの国の人にとっても考えさせられるテーマですよね」(沢井さん)

    「とても丁寧に作られた作品。シンプルなのにキャラクターの表情が豊かだし、観る人の年代や立場、そのときの状況によって見え方が変わる作品だと思います。観る側に想像の余地が残されているのも魅力。子どもに安心して観せられるところも、子を持つ親としてはありがたいです」(千葉さん)

    中国語がわかるとクスッと笑える!?

    最後の最後の弟子!?

    ルーイエがムゲンに対して自分が最後の弟子だったのではと詰め寄り、シャオヘイは「最後の最後の弟子だ」と返されるシーン。オリジナルではルーイエの「関門弟子」(門を閉める弟子)という言葉に対して、ムゲンは「鎖門弟子」(鍵をかける弟子)と返答している。苦し紛れな言い訳が洒脱な言葉遊びで表現されていて面白い。

     

    姉弟子と弟弟子、それに叔父師匠の関係

    中国では年齢ではなく、世代による上下の礼儀も厳格。それは家族と同等かそれ以上といわれる師弟関係にも及んでいる。ムゲンに師事したルーイエとシャオヘイは姉弟子・弟弟子の関係だが、ルーイエの弟子であるジーユーから見たシャオヘイはたとえ年下の子どもであれど、“師叔(叔父の位置にあたる、師匠の弟弟子)”と呼ばれる。

    Ⓒ 2026 Beijing HMCH Anime Co.,Ltd インタビュー、文・尹 秀姫

    anan 2481号(2026年1月28日発売)より
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    No.2481掲載

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