『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『ニンフォマニアック』などで知られる鬼才ラース・フォン・トリアーの親戚…そんな説明は必要ないほど、国際映画祭を賑わす人気監督に躍進したヨアキム・トリアー。彼が得意とするのは、登場人物の心の機微をすくい取る繊細な描写。
映画『テルマ』は、父親と幼い娘テルマが狩りを楽しむシーンで幕を開けます。舞台は凍結した湖の先にある、ノルウェーの雪深い森。鹿に狙いを定めいたはずの父親は突然、テルマにライフルの銃口を向けます。固唾をのんで見守っていると、場面は一転。美しく成長し、オスロの大学へ通うテルマの姿が映し出されます。信心深く、厳格な両親の元で育った彼女にとって、大学生活は刺激に満ちあふれたもの。発作に襲われたテルマを気遣ってくれた同級生の美女アンニャに憧れ、初めてのお酒とタバコを経験。次第に、テルマとアンニャは強く惹かれ合う関係となります。高まる恋心と比例するかのように、テルマの発作は悪化の一途をたどり、彼女の周囲では不可思議な現象が頻発。原因を探るために検査入院したテルマは、幼いころに精神衰弱で投薬治療を施されていたことと、両親からは死んだと聞かされていた祖母が精神を病んだまま老人ホームで暮らしていることを知ります。テルマが家族の秘密に近づいた矢先、アンニャ失踪の知らせが!
彼女の部屋を調べたテルマは、失踪の原因が自分にあると確信。両親との対峙を決意しますが…。
ホラー映画のお約束といえば、クレイジーな男性の殺人鬼にか弱い女性が襲われるというもの。ところが、名作ホラー『キャリー』や『RAW 少女のめざめ』のように、超自然的な力を思春期のメタファーとして描く場合、女性は男性を凌駕する存在に。力に覚醒した女性は社会に恐れられはしますが、心身ともに自由を得ます。テルマも同じく、両親に殺される寸前まで追い詰められながら、純粋な愛を貫いていきます。彼女が支配から解放されるシーンでは、多くの観客がカタルシスを感じるはず。
ヨアキム・トリアー監督は劇中、キリスト教で特別な意味合いを持つ、水(=再生と浄化)や蛇(=悪魔)などのイメージを繰り返し登場させています。テルマの信仰心に由来する罪悪感を視覚的に表現することで、観客の心に強く印象付けているのです。また、テルマ役のエイリ・ハーボーは世界的には無名でしたが、監督の巧みな演出へ見事に対応し、シーンごとに違った表情を披露。ベルリン国際映画祭でシューティング・スター賞を獲得しました。6代目ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグやオスカー女優のアリシア・ヴィキャンデルを輩出した賞だけに、今後の飛躍が期待されています。
余韻を残す結末の捉え方は、あなた次第。テルマはキャリーのような悲劇的運命を辿ったヒロインなのか、それともロマンティックなラブ・ストーリーの勝者なのか。ぜひ、あなたの目で見届けて。
『テルマ』 初恋を機に、美少女の本能が覚醒する北欧ホラー。監督・脚本/ヨアキム・トリアー 出演/エイリ・ハーボー、カヤ・ウィルキンスほか 10月20日(土)YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
©PaalAudestad/Motlys
※『anan』2018年10月24日号より。文・田嶋真理
(by anan編集部)
#映画についてさらに読んでみる。
#恋愛をもっと覗いてみる!
※あなたは大丈夫...?男が吸い付きたくなる「モチぷる肌」♡
[gunosy]
#ダイエットについて、もっと深く知る♡[/gunosy]