頑張る人たちの背中を押す、リアルが詰まった藝大受験マンガ。
「藝大の美術学部は浪人経験者が多いのですが、現役合格者のほうがスポットを当てられがちなんですよね。浪人をするとメンタル的にもきつく、私の場合は一時期、絵を描けなくなったりもしたのですが、そういう姿こそ知ってほしいと思ったんです」
あららぎさんが受験したデザイン科は、センター試験(当時)を突破すると、デッサンのほか色彩構成、立体構成という3つの実技試験が待っている。ひとつの試験が6~7時間と異様に長く、技術だけでなく気力・体力勝負なのだが、それぞれの試験で求められることや、勉強方法などをわかりやすく解説していく。
「もっと早くに知っておけば、何度も浪人せずに合格できたかもしれない、と気づいたことを盛り込みました。というのも、マンガに出てくる私の父がまさにそうなのですが、美術家肌の人って教え方が感覚的で、わかりにくかったりするので」
そんな父は、藝大を現役合格した陶芸家。自由かつ楽しそうにものづくりをしている姿を幼い頃から見てきたことで、あららぎさんは藝大を目指すように。子育てに関しても非常に自由かつおおらかで、自分は予備校へ行かずに藝大に入れたからと、学費の援助は一切なし。よってあららぎさんはバイトで予備校の学費を稼ぎながら、時折、父に教えを請い、過酷な浪人生活を送ることになる。
「バイトをしないで浪人できるなら、そのほうがよかったけれども、自分で学費を稼いででも藝大に行きたいと思えるかどうかが大事だったんでしょうね。そういう意味でやれるところまでやったので、どんな結果でも私は納得できたと思います」
とはいえライバルが合格していく焦りや、描いても描いても上達している気がしないもどかしさ、多浪のトラウマなど、苦しい日々を思い出して何度も筆が止まったそう。
「あの経験を乗り越えた今は、何が来ても大丈夫と思えます。ものづくりは本当にハードで、自分を追い込まなければできないところがある。そのためのベースの部分を、ずっと鍛えていたんだなって気がつきました。父はこの本を買って、いろんな人に配ってくれたそうです」
『東京藝大ものがたり』 noteで連載され話題を呼んだ「東京藝術大学受験ものがたり」を改題してコミック化。夢をつかもうともがき苦しむ姿は、美術に詳しくなくても胸を打つはず。飛鳥新社 1200円 ©あららぎ菜名/飛鳥新社
あららぎ・なな マンガ家、イラストレーター、UI・UXデザイナー。本作は「cakesクリエイターコンテスト2020」入選作。著作に『抑死者』。
※『anan』2021年6月23日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)