ハチャメチャなのにエモい…超身勝手なオッサンの人生最後を描く映画とは?

2021.3.16
オネエ系映画ライター・よしひろまさみちさんの映画評。今回は『ワン・モア・ライフ!』です。

笑いと涙の人生ゲームよ!

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人が死ぬ直前って、よく「それまでの人生が走馬灯のように」とか「先に亡くなった家族の姿が見える」とか、世界中で似たようなことがいろいろ語られているわよね。でも、実際のところ、そんなドラマティックなことってあるの!? って思っていたあたし。『ワン・モア・ライフ!』で描かれる死の直前の描写を観たら「これだ!」と思っちゃった。

イタリアのシチリア島の港で技師として働くパオロは、普段から健康に気をつけ、妻子はいるものの恋人との火遊びもし、人生を身勝手にエンジョイしているオッサン。そんな彼が、スクーターでの仕事帰りに事故にあってあっけなくポックリ逝っちゃうの。そのとき、彼が考えたのは妻子のことでも天国の親族のことでもなく、自分のこと。事故の直前に、タクシーの客待ち車列に文句をつけたり、恋人から言われた一言のことや、まじで身勝手。そんな彼は死んだ人が通らないといけない天国の窓口へ。そこでは彼と同じように自分の予想とは違ったタイミングで死んだことにイチャモンをつける人がわんさかいるの。寿命の短さに納得いかない彼は、天国の役人に食ってかかり、「いったいいくらスムージーに金かけたと思ってんだ!」とクレームをつけるのよ。すると、なんと天国の寿命計算に前代未聞のミスが発覚。彼の寿命はもうちょっとあったの! でも、それはたったの92分間。そこで特別措置として、彼はタイムリミットつきで現世に戻されることに……。

冒頭、このオッサンの身勝手さには共感できないものの、死んだときに考えることには見事にズキュン。いや、もし寿命がわかっているなら、メランコリックに人生の終わりを感じられると思うんだけど、実際のとこ人っていつ人生を終えるかなんてわからないじゃない。きっとあたしが死に直面したら、「植木の水やりしてなかったわ」とか、深いことを考える間もなく現世とオサラバということになると思ったのよね。その点だけはガチ共感よ。だってあたし、養う家族もいないし、独身ゲイだし、パオロほどじゃないけど、正直、超身勝手な人生歩んでるんだも~ん。

冒頭こそハチャメチャコメディなんだけど、ここから先の物語はかなりエモい! 寿命がわかった上で現世に戻されたパオロがまずすることは、それまでなおざりにしてきた家族との時間を過ごすこと。ただし、ここでパオロの思うようにはいかないってのがいいのよね。だって、それまでの彼って、家庭をかえりみずに、誘惑にまかせて遊びまくってたんだもの。そりゃ家族からは見放されてるわよ。しかも、子どもは思春期真っ盛りで、そんなパパはなつかれるどころか、キモがられる始末。やっぱり身勝手に生きるにしても、自己完結している身勝手はアリとしても、誰かを巻き込んじゃダメってことよね。だって、パオロは周囲の人にも遊びグセを知られていて、止められているのにやめなかったんだもの。自業自得だわよね。

パオロに共感して、とはとても言えないけど、彼が生前にとっていた行動の愚かさが、周りの人や家族にどういう影響を与えるかってことは、この作品から教訓として学べるはずよ。さ、人生ゲームやりましょかね……(劇中にも出てくるわよ)。

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『ワン・モア・ライフ!』 監督・脚本/ダニエーレ・ルケッティ 出演/ピエールフランチェスコ・ディリベルト、トニー・エドゥアルト、レナート・カルペンティエーリほか 3月12日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国ロードショー。©Copyright 2019 I.B.C. Movie

※『anan』2021年3月17日号より。文・よしひろまさみち(オネエ系映画ライター)

(by anan編集部)