「私は道東に住んでいるのですが、ドライブしていると廃墟があって、調べると昔そこで産業が栄えていたと分かったりします。資料を読んでみると、挑戦してみたけれど駄目だった産業が結構あるんです」
たとえばかつて、札幌の近郊では養蚕業が栄えたという。
「野生の桑があったので養蚕を試したところ、蚕がたくさん消費するので足りず、本州から苗を入れてみたけれど育たなかったそうです」
その栄枯盛衰を、養蚕で成功を収めた家の少女の目から見つめる「蛹(さなぎ)の家」。一方「頸(くび)、冷える」では毛皮の生産のためもともと北海道にはいなかったミンクの養殖業を営んだ男の末路を、巧みな構成で読ませる。
「山の中を歩いていると、イタチに似た動物を見かけることがあって。親に聞いたら、昔飼われていたミンクが逃げて野生化したんだよ、と」
ハッカ油を大規模生産していた時期を一人の女性の人生とともに追うのは「翠(みどり)に蔓延(はびこ)る」。また、南方も舞台となる「南北海鳥異聞」では、羽毛を採るため鳥を撲殺することに喜びをおぼえる男が登場。
「悪い人を書いたことがなかったので挑戦してみました。なので、これは文体を変えてみたりしています」
蹄鉄屋の息子が小学校の畑で働かされた馬の運命を見届けるのは「うまねむる」。レンガ工場が舞台の「土に贖う」、それと同じ土で陶芸を試みる男が登場する「温(ぬく)む骨」。
「学生の頃に陶芸をかじったのですが、使うのは北海道の土ではないんですよね。どうしてか聞いたら、鉄分が多くて陶器には向かないとか」
どの短編も、土地と人びとの人生の関わりが巧みに描かれていて痺れる。タイトルに込めた意味は、
「“贖う”には罪を償うという意味がある。この150年間、北海道の土地は掘られたり混ぜ返されたり枯渇させられたりしてる。それは善悪では言えないことですが、なにがしかの感情を持つとしたら、人が関わることでその土地は元に戻せない状態になると自覚することなのかな、とは思ったんです」
かわさき・あきこ 作家。1979年、北海道生まれ。2014年に三浦綾子文学賞を受賞した『颶風の王』で注目され、今年『肉弾』で大藪春彦賞受賞。羊飼いでもあるが、今後専業作家になる予定。
『土に贖う』 明治期の開拓以降、さまざまな産業のトライ&エラーが繰り返されてきた北海道。関わった人々の思いと人生を鮮烈に、巧みに描く短編集。集英社 1650円
※『anan』2019年10月16日号より。写真・森山祐子(河崎さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)
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