「こうした性転換モノは10代のラブコメ的な世界ではあるけれど、30代既婚の社会人が主人公のは見たことないぞ、好きなエロも織り込めるぞ、と気づきました(笑)。せっかくの週刊誌連載なので、頭で難しく考える前にやってみようと」
100均チェーンの商品企画部で働く磯森晶と、2歳年上の妻・苑子は、結婚5年目ですでにどこか冷めた関係。それを寂しく思っていた晶は、ある晩、九死に一生を得る。同時に世界でもめずらしい〈異性化体質〉であることが判明。苑子のサポートで、化粧や下着など不慣れな「女性の日常」を始めるが、晶自身は、女ふたりで再出発することとなった結婚生活にも心が揺れていて…。
ところが2巻では、さらに仰天の出来事が! 夫婦という共同体に、セックスや子作りなど性の問題が、ますます複雑に立ちはだかる。
ちなみに、LGBTをめぐる空気は実社会でも変わりつつあるものの、なおデリケートな問題。だが本書では、とても温かく描かれている。
「性的マイノリティについて問題提起しようと始めたわけではなく、あくまでエンタメとして楽しんでもらえれば。理解があっても当事者の気持ちを完全に体現することはできないので、LGBTの方々と実際にお話しさせていただき、どういう表現なら失礼に当たらないかなど腐心しています。前向きな物語にしていきたいと思っています」
その取材や、描くことを通してなお強くなった思いがある。
「私自身、可愛い女の子とお食事して楽しくお話ししたいな、という気持ちもあるんですね。名前が付くほどの感情ではないけれど、男や女である前に『ひとりの人間じゃん』と思うし惹かれる相手に性別って関係ない。性別でくくって話されると逆に『一緒くたにしないで』と反発したくなることもあります。それくらい性は多種多様だし、個人差あります、なんじゃないかと思うんです」
『個人差ありマス※』2 脳出血から奇跡的に生還した32歳の磯森晶は、体が〈異性化〉してしまったことにとまどう。そのとき妻で作家の苑子は…。『モーニング』で連載中。講談社 610円 ※マスは□に斜線
ひぐらし・きのこ 神奈川県出身。別冊フレンド新人まんが大賞の佳作を受賞し、2005年にデビュー。少女誌で活躍した後、青年誌での初連載『喰う寝るふたり 住むふたり』が話題に。
※『anan』2019年6月5日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)
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