――貴子は不倫騒動で左遷され、投げやりな毎日を送る女子アナですね。かなり毒舌で、性格がいいとはとても言えないですが、女性から見ればわからなくもないなぁと思うところもありました。
本当は素直な子なんだろうなとも思うけど、虚勢で生きているから周囲に攻撃的になったりしてしまうんです。でも、25歳ぐらいって、誰しも貴子のように、仕事にもある程度慣れてきた中で、自分の現状やこの先のことについて悩むと思うんです。おっしゃる通り、きっと、貴子が置かれている状況をわかってくれる方は多いのではないでしょうか。
――ひねくれていて、口の悪さもかなり目立ちますよね(笑)。
そうなんです(笑)。でも、私、脚本家の足立(紳)さんの書くセリフや独特なテンポがすごく好きなんですね。だから貴子がクダ巻いているところも、その言葉のチョイスが面白いと思っていたし、率直すぎて口の悪い時の貴子も好き。ある意味人間らしいですよね。ただ可愛いだけじゃないというか、トゲのある部分がまた魅力的です。
――貴子は、幼少期に1年だけ過ごしたことのある鹿児島県の南大隅町に伝わる祭りの取材を命じられるわけですが、実際にその地で行われている“御崎祭り”を舞台に物語が進みますね。
3週間の撮影期間のほとんどは、南大隅町に滞在していました。コンビニ、お店など何もないところで、海や山の大自然だけ。東京生まれの私にとってはすごく新鮮でした。撮影は3月に行われたのですが、そのお祭りは毎年2月に行われるということで、撮影に入る前に実際に見に行ったんです。わっしょいわっしょい、というにぎやかな感じではなくストイックで、お祭りというよりは儀式に近い感じでしたね。映画でも本物のお祭りを忠実に再現しています。女性は神輿の巡行に参加できないのですが、参加した男性キャスト陣は大変だったと思います。
――鹿児島時代の貴子の同級生だった太郎を演じた太賀さん、洋平を演じた岡山天音さんが、祭りのシーンが進むにつれどんどんかっこよくなっていくので驚きました。
そうなんですよ。このお祭りがどんなに大変か、二人の表情だけで伝わってきますよね。太賀くんや天音くんが祭りの間中持っている鉾と傘は本当に重いんです。しかも、撮影時には雨が降っていて、さらに水を含んで重くなるという。南大隅町のみなさんの協力のおかげもあって、リアルなシーンになっていますね。
――貴子と太郎が軽トラの中で本音をぶつけ合うシーンも、気迫がみなぎるやりとりでしたね。
あのシーンは私も印象に残っています。というのも、ワンカットの長回しだったんです。日が暮れていくほんの一瞬を狙っての撮影だったので、本番は回せて1~2テイク。お昼からセッティングして日が暮れるのを待って、すごく緊張感のある中で撮りました。太賀くん演じる太郎と初めて本音でぶつかり合うシーンなのですが、私自身も太賀くんとの絆が深くなった気がします。それまでは貴子のことを“なんだこの女は”って思っていても、物語が進むにつれてこの子を応援したいなって気持ちに変わっていく、重要なシーンじゃないでしょうか。
――長回しは得意ですか?
私、長回しが好きなんですよ。細かくカットを繋げていくよりも、長くても1カットで撮ったほうが気持ちを繋げられるから。特に感情的なシーンだと、何度も気持ちを繋ぎ直すのは難しいですからね。それに、撮影や照明など現場にいるすべての部署がうまくいかないと長回しは成立しない、という緊張感も好き。1回バッと集中して撮っちゃえば終わるから好き、っていうのもあるんですけどね(笑)。
かほ 1991年6月30日生まれ、東京都出身。12歳でスカウトされ、翌年に女優デビュー。2007年、主演映画『天然コケッコー』で日本アカデミー賞はじめ数々の新人賞を受賞し、その後の主演映画『東京少女』『うた魂♪』『砂時計』で一気に人気女優へと成長。近年では映画『海街diary』で、日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞し、話題に。
ワンピース¥48,000(オーラリー TEL:03・6427・7141) その他はスタイリスト私物
『きばいやんせ!私』不倫騒ぎで週刊誌に叩かれて左遷された、女子アナの貴子。仕事にやる気も目標も見出せないまま、投げやりな日々を送っていた。ある時、命じられたのは、本土最南端の町・鹿児島県南大隅町に伝わる祭りの取材。町の人たちの熱い思いや、幼少期の思い出によって、今の自分を見つめ直す羽目になるが…。映画『きばいやんせ!私』の監督は武正晴、主演は夏帆、出演は太賀ほか。3月9日より全国ロードショー。
※『anan』2019年3月6日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・清水奈緒美 ヘア&メイク・成田祥子 インタビュー、文・若山あや
(by anan編集部)
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