江戸時代の商家を再生した「鞆の浦・さくらホーム」。リハビリがてら町を散歩する石飛さんと利用者さん。

介護の現場は全国各地にたくさんあり、働きたい場所を選べるのも魅力。風光明媚な景色と歴史的な町並みが広がる「鞆の浦」で地域に根付いた介護に取り組む事業所に魅力を感じ、移住してきた石飛佳那さん。海風を感じられる仕事現場にお邪魔して、石飛さんの働きぶりに密着!

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    自分らしさが強みになる! ユニークで多様な介護の現場で働く

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    身近にありながら、具体的なしごとのイメージが湧きづらい介護の世界。でも実は、クリエイティビティを発揮しながら働ける場所なのです。個性溢れる施設で、モチベーションを持って働く人たちを通じて“介護のしごと”の魅力に迫ります。[本プロジェクトは厚生労働省補助事業 令和7年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)として実施しています。(実施主体・マガジンハウス)]

    お話を伺った方 石飛佳那さん

    Profile

    石飛佳那さん

    いしとび・かな 作業療法士。理学療法士・作業療法士養成専門学校で4年間学び、国家資格を取得。卒業後、「さくらホーム」に入職し、デイサービス事業部に配属。リハビリ支援や生活支援を行う傍ら、小規模多機能型居宅介護の訪問にも挑戦。

    自分が理想とするケアを実践するために鞆の浦に移住

    利用者さんと食卓を囲んで、一緒に昼ごはんを食べる石飛さん。カメラを向けると、「あんた、もっと笑え~」と利用者さんにからかわれ、まるで家族のよう。

    朝礼の後に、利用者さんの身体機能の維持・向上のために体操レクリエーションを実施。石飛さんのハツラツとした声が施設内に響き渡る。

    施設の近くに住む利用者さんは歩いて送迎。

    リハビリ中に声をかけて、利用者さんのモチベーションをアップ!

    利用者さんの自宅を訪問して介護を行う石飛さん。

    訪問先から帰る際の一幕。「また来ますね」とご挨拶。

    風情溢れる鞆の浦の景色。ジブリ映画の『崖の上のポニョ』の舞台になったことでも知られる。

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    広島県の福山駅から路線バスに揺られること約30分。穏やかな海に抱かれた港町が見えてくる。ここは、瀬戸内海の中央に位置する鞆の浦。『万葉集』にも詠まれた最古の港のひとつで、人と物が行き交う寄港地として栄えた歴史を持ち、昔ながらの町並みが残る。その景観を守るために、築350年の商家を改装して開所したのが複数事業が一体となった「鞆の浦・さくらホーム」だ。

    「この建物は、もともと『鞆酢花浪』というお酢の製造所だったんです。私も最初に訪れた時、『え、ここが介護施設なの!?』とビックリしました。ここでは私がやりたかった地域密着のケアを実践していて、私もその一員として働きたいと思い、専門学校卒業後に、すぐに『さくらホーム』に入職しました」

    と話すのは、地元の島根県・松江から鞆の浦に移住してきた作業療法士の石飛佳那さん。「さくらホーム」は、“年齢を重ねても 障がいがあっても 居場所となるまちづくり”をミッションに、鞆の浦を中心に、地域密着型の高齢者介護事業や放課後等デイサービス、就労継続支援の事業所など様々な介護・福祉事業を展開。

    その拠点のひとつが「鞆の浦・さくらホーム」で、デイサービス、グループホーム、小規模多機能型居宅介護と包括的にサービスを提供。石飛さんはデイサービスに所属し、リハビリや食事・入浴など生活支援を行っている。移住してまでここで働きたいと思った理由は?

    「私は介護専門ではなく、作業療法士といって身体の運動機能や認知機能に障がいなどがある方が、問題なく日常生活が送れるようリハビリで支援する職種に就いています。作業療法士が活躍できる職場は、病院や施設など多岐にわたります。私は、専門学校時代に様々な現場で実習体験を行い、高齢者と触れ合うのが楽しかったし、私がやりたいケアができるのは介護施設だと思ったんです。

    そう感じた出来事が、介護施設に2か月実習していた時のこと。体調が悪くなり病院に入院された利用者さんがいたのですが、『みんなに会いたいから』と施設に一時帰宅した際に、顔馴染みの仲間に囲まれ生き生きとした表情を浮かべたのを目の当たりにしたんです。その時に知り合いや環境が人の気持ちを支えていることを知り、利用者さんが住み慣れた地域で長く生活が続けられるよう、リハビリや生活全般の支援をしたいと強く思いました。

    その話を専門学校の先生にしたら、そういう地域に根差して働ける場所が鞆の浦にあると言われ、すぐに見学に訪れ、まさに私が理想とするケアを実践していたので、ここで働きたいと思いました」

    その人らしさを大切に、地域で支え合う介護を実践中

    施設内は話し声や笑いに溢れ、まるで地域の集会所のようなアットホームな雰囲気。何をするにも職員のペースで進めるのではなく、利用者さんと一緒に進めていくから、チーム感が半端ではない。

    「私も利用者一人ひとりの気持ちを尊重したケアを心がけています。たとえばリハビリする際は、本格的に機能訓練を行いたい方には器具を使いますが、手芸好きな方と編み物をして手を動かしたり、歩くのが好きな方と町を散歩したり、その人の生活歴に合わせてサポートしています。今日一緒に散歩した利用者さんのおひとりは、施設からすぐの場所で美容室を夫婦で営んでいる方で、髪を切りに来るお客さんが復活を待っているので、立位や歩行訓練を一緒にしています」

    石飛さんはデイサービスの現場だけでなく、小規模多機能型居宅介護の訪問にも挑戦中。鞆の浦に住む利用者さんの自宅を訪れ、一対一で向き合う時間もかけがえのないものだとか。

    「鞆の浦でひとりで住んでいる方が、自宅でも自分らしい生活を続けていけるように、オムツ交換や部屋の掃除、食事の準備・片付けなど、身体介護・生活援助などを行っています。ご自宅に行くと、いつもは物静かな方がたくさん喋ってくれたり、新たな一面を知ることができて、距離がグッと縮まることも。

    また町に出る機会が多くなったことで、地元の方に『さくらホーム』の職員と認知され、仲間意識を持ってくれる方が増えました。『ちょっと足が痛いんだけど、どうじゃろ?』など、声をかけられることも多くなり、“鞆の浦の人々を地域で支えていく”ことを肌で実感しています。

    ここに来てまだ1年半ぐらいですが、『あんた、ようできるようになったね~』とか、『あんたが来たけ~、じゃあ歩かんといけんな』などと言われることもあり、地域の方々の優しさに触れて、私自身が元気をもらう毎日です。だから私もこの地でもっと経験を積み、その人らしい生き方のお手伝いをしながら、地域に愛される人材になれるよう、頑張りたいです」

    地域密着型の高齢者介護事業

    information

    鞆の浦・さくらホーム

    写真・村上未知 取材、文・鈴木恵美

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