
何事も一生懸命で献身的。だけど、頑張りすぎてキャパオーバーに。人間関係の距離感にも悩みを抱えがちな「丁寧すぎるさん」が増加中。そんな人がすこやかに日々を過ごすために、NOを伝える方法を伝授します。
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言葉にしなければNOは伝わらない。
仕事も家事もきちんとこなし、コツコツ努力できる。そんな長所も一歩間違えると「もっとちゃんとしなきゃ」と自分を追い詰めてしまうことに…。近年増えているそうしたタイプの人を、職場の人間関係に詳しいキャリアコンサルタント・みさきじゅりさんは「丁寧すぎるさん」と命名。
「丁寧すぎるさんは手を抜くことに生理的な気持ち悪さを感じ、人の頼みや誘いを断るのが苦手。なので、“何でもやってくれる人”という印象を持たれやすいのです。さらに、人間関係の距離感でトラブルを抱えがち。周りで起きていることまで自分のことのように感じ、他人の仕事も背負い込んでしまうため、いつのまにかあらゆる作業をすることになって手一杯になり、燃え尽きてしまうことも。そうした繊細な人とそうでない人の間では、ハレーションが起きやすいのです。そんな丁寧すぎるさんにお伝えしたいのは、自分からNOを言わない限り、相手には伝わらないということです」
それでは、人間関係を壊さず、自分の気持ちに正直に、断る勇気を持つ方法を教えてもらおう。
丁寧すぎるさんの特徴
丁寧すぎるさんについてなんとなくはわかったけれど、それって実際どんな人? 具体的な丁寧すぎるさんの特徴をメリットとデメリットに分けて説明します。
メリット:完璧主義、役に立ちたい
細部までこだわり、気も回る“ シゴデキ”。
仕事も人間関係もこなすだけでは満足せず、クオリティの高さを追求! 資料作成では、きちんと段取り通り、内容はわかりやすく、見た目も美しく仕上げる。ごはん会でも、面倒な店選びも出欠確認も自ら引き受ける人。誰かのために動くことが自分の喜びと感じられるので、所属しているコミュニティでは“丁寧さん”として皆から信頼される。
デメリット:こだわりや、自己犠牲
すべてが気になりストレスに感じてしまう。
資料作成なら、些細なズレなど見た目の細かいところまで気になり、クオリティの高さを追求しすぎるなど、優先度が高くないことに時間をかける。周りの人が大変そうだと、自分のことのように感じて自ら手伝ってしまう。必要以上に頑張りすぎているのに、心身への負荷が過剰にかかっていることに気づかず、「自分」を置き去りにしてしまう状態に。
頑張りすぎ度診断
丁寧すぎるさんは頑張ることがデフォルトで感覚が麻痺してしまい、自分がそうだとは気づけない状態に陥りがち…。10個以上当てはまったら、丁寧すぎるさんの可能性大。
□「~したい」より「~するべきだ」と思うことが多い
□「大丈夫です」「できます」とすぐ言ってしまう
□マニュアルなどを見て「ここに書いていないことが起きたらどうしよう?」と考えてしまう
□「迷惑をかけたら申し訳ない」と思う
□「もっとやれることがあったのでは」といつも気掛かり
□手の抜き方がわからない
□大変そうな人がいると気になって仕方がない
□休みの日も、ふと仕事のシーンが脳裏に蘇る
□気づいたら夜なべしていることが多い
□「よく気がつくね」と言われる
□人からの誘いを断れない
□仕事もプライベートも、もっと良くしていきたいのにそれができていない自分のことが嫌いになることがある
□ひとりで過ごす時間が必要だけれど社会とのつながりは保っていたくてそのバランスがわからない
□職場で「気軽に相談してよ♪」と面と向かって言われると、どこから話していいか考えてしまうから気軽になれない
□チャットの未読通知アイコンがたまらなくプレッシャーに感じる
□抜けたいグループLINEや仕事のスレッドがあるが、いつもそこに一番先に目がいってしまう
□自分としては考えを丁寧に述べているだけなのに、会話の途中から周りの人の集中力が落ちているのがわかる
【NOの伝え方講座】「心の仕分け」で自分の気持ちを見つける。
人の気持ちを慮って、大変そうな人がいれば放っておけないのは、丁寧すぎるさんの素敵な一面。ただ、それよりも大事なのは自分がどう思い、どう感じているのか。混乱した心の中から自分の本心だけを取り出すための方法を伝授します。それがNOを言えるようになる第一歩!
CHECK:外的刺激を取り除き、本心に気づこう。

丁寧すぎるさんは、とにかく頑張らなきゃと焦りがち。頭の中がぐちゃぐちゃな状態では、パフォーマンスが落ち、信頼を失い人間関係にも悪影響が…。また、周りの人が慌てていれば、頼まれる前に先回りしてその人に手を貸し、自分に負荷をかけて気疲れしてしまう…。そうならないために、まずやってほしいのが心の仕分け。
「丁寧すぎるさんは、相手のリアクションに敏感です。目の前の人が眉を上げたら、その人は少し驚いただけだったかもしれないのに、『言うタイミングがよくなかったのかも。いや、発言したこと自体ダメだったに違いない』と悪い方向に妄想を膨らませがちです。こうした相手のリアクションや、周りからの評価という外からの刺激が、丁寧すぎるさんの心を浸食して、自分自身の本心にどんどん気づけなくなっていってしまうのです。丁寧すぎるさんにとっては、相手の行動や言葉だけでなく、匂いや音なども心を乱す大きな要因に。そこで、自分の気持ちや感じていることと、外からの刺激によって生まれた気持ちを分別する“心の仕分け”をする必要が出てくるのです」
ACTION:習慣にしたい2つの自問自答。
自分への質問を活用する。
そう思っているのは誰?
例えば相手先でのミーティング。先方があたふたするのを見て「私が早く着きすぎたからだ。喫茶店でやったほうがよかったかも」と考えてしまう。でも、本当に相手はそう思っている? そう自らに問い掛けると、思っているのはあなた自身にすぎないと気づける。
相手は「大変」と言っている?
よく気づく丁寧すぎるさんは同僚がため息をついたのを見ると「大変そう…」と落ち着かなくなり助けてしまいそうに。でも、ちょっと待って! 大変だと言われて助けるのは優しさ。でも口にしていないならあなたの思い込み。手を差し伸べるのはちょっと待とう。
◎心の仕分けを上手に行うためのプチレッスン
目に見えない心を見える化するのに有効なのがノート術。クローゼットの整理はモノを全部出したほうが効率がいいように、心でモヤモヤしていることをすべて書き出す。
「そして文章に“主語=私”をつけます。例えば『親友がイライラしていた』だったら『親友がイライラして“私は”悲しかった』といった具合です。そうすると、イライラしていた親友と自分を切り離すことができ、自分の気持ちが明確になります。一冊書き終わったら、ノート術に取り組んだ自分を褒めながら破り捨てて。あとで読み返さないと思ったら、気持ちを素直に書けますよ」
まずは週末や金曜の夜に一週間を振り返ることからスタート。すぐに書くほうが効果的なので、小さなノートとペンを持ち歩くのが理想的。
Profile
お話を伺った方・みさきじゅりさん
HSP専門キャリアコンサルタント。元来のナイーブな感受性と旺盛な好奇心を持つ気質と転職経験を活かし現職に。著書に『丁寧すぎるさんのための仕事・人間関係力の抜きかた』(三笠書房)や『とても傷つきやすい人が無神経な人に悩まされずに生きる方法』(ダイヤモンド社)など。
anan 2447号(2025年5月21日発売)より