写真・中村香奈子 取材、文・鈴木恵美 PR・厚生労働省
クリエイティビティを生み出す、
やりがいのある介護の現場。
ボランティア、趣味を楽しみながら…、様々なカタチで介護と関われる時代。自分らしく介護と向き合い、自己成長している2人のキーパーソンに迫る!
Keyperson1:立川麗佳さん
「介護」&「教育」
自分の特技や培った経験を介護の現場でも役立たせたい。
通信制高等学校の教職員として働いている立川麗佳さんは、2019年から介護・福祉に特化したスキルシェアサービス「スケッター」を活用し、ボランティアとして様々な介護施設を訪れ、お手伝いをしている。
「昔からボランティアに興味があり、ネットでいろいろ調べていたら『スケッター』を発見したんです。以前から介護業界の人手不足が深刻化していることはニュースなどで知っていたので、私にもできることがあれば役に立ちたいと思っていました。『スケッター』は仕事をしながらスキマ時間を利用してスポットで介護に関われるため、すぐに登録しました。介護の経験はありませんでしたが、サイトに掲載されるボランティアの募集は、レクリエーションの提供や食事の準備、傾聴(話し相手)など、私にもできそうな内容のものばかり。だから休日を利用して、場所や内容が自分にマッチするものに応募して、平均月2回ほどお手伝いをしています」
介護の仕事というと、食事・入浴・排泄の介助などをイメージする人が多いが、利用者さんの体に直接触れること以外にも多岐にわたる。「スケッター」では無資格・未経験の方でも気軽に参加できるお手伝いだけを募集していて、立川さんはこれまでに傾聴、食事の準備、布団やシーツ交換、そしてイベントなど介護施設で行うレクリエーションのお手伝いを行ってきた。
「先日も施設の夏祭りに参加して、売店でお手伝いをしてきました。また幼少期から習ってきたピアノをレクリエーションで披露したり、普段教職員としてPCで資料を作成することが多いので、介護施設のPR広告のチラシを作ったこともあります。介護の専門的な知識がなくても、自分の趣味・特技、これまで培ってきた経験を活かせるのが魅力。『ありがとう』と感謝される機会が多く、自信にも繋がって毎回やりがいを感じています」
実際に様々な現場で、介護する側と介護される側の関わり方を見るうちに、教職員として子どもたちに指導していく上で、立川さんの中である意識が芽生えたそう。
「最近は、自立支援を重視している介護施設もあります。そんな現場を訪れて、何でもかんでもしてあげるのでなく、利用者さんが何を望んでいるのかを理解し、自立した生活を続けられるようにサポートしていくことも介護なんだと知りました。“援助ではなく支援”。これは教育の現場でも同じことがいえると思います。私が働いているのは通信制の高等学校なので、発達障がいや病気を抱えている子、芸能活動をしている子など、個性豊かな子がたくさん通っています。もちろん単位を取得させて卒業できるように指導していくことも大事ですが、一人ひとりの思いを尊重することの重要性を改めて感じ、将来どんな自分を目指してどんなふうに成長していきたいかを一緒に考えながらサポートできるよう、日々生徒たちと向き合っています」
今後も自分にできる範囲で介護に関わりながら、人間として、教職員として成長していきたいと話す。
「先ほど『ありがとう』と言われることにやりがいを感じると言いましたが、自分にできることをもっと増やして、感謝されなくてもいろんな場面で貢献できるような人になりたいです。そしてせっかく介護の現場で経験を積んでいるわけだから、それを生徒たちと共有して、仕事のこと、介護のことなど、将来のことを考えるきっかけになるような機会も作っていきたいです」
援助ではなく支援。この意識は
介護、教育どちらにも通じる。
このサービスを利用!「スケッター」
お手伝いを求めている介護施設と、サポートしたい人を繋ぐマッチングサービス。スキマ時間を利用して気軽に手伝いに参加でき、登録者の約65%が介護未経験者。
https://www.sketter.jp/
Keyperson2:鈴木翔太さん
「介護」&「演劇」
大学時代に高齢者施設で寸劇を披露した経験が今に繋がっている。
介護福祉士として介護付き有料老人ホームで働く傍ら、休日を利用して舞台役者をしたり、歌唱指導をしたり、ラジオドラマで声の出演をしたりと、俳優業をこなしている鈴木翔太さん。鈴木さんが介護の現場に興味を持ったルーツは、演劇と向き合っていた大学時代にあるそう。
「大学で舞台芸術を学んでいた時に、様々な施設で芸術の普及活動を行う『アウトリーチ』活動の一環で、高齢者施設を訪問し芝居を披露する機会がありました。テレビドラマ『水戸黄門』を題材にしたオリジナル寸劇を、踊ったり歌ったりしながら上演するんです。僕も水戸黄門役や助さん役を何度かやらせてもらったんですが、その姿を見て訪ねた先の方々がゲラゲラ笑ってくれたんです。その時の思い出がずっと心に残っていたんです」
大学卒業後、鈴木さんは建築現場でアルバイトしながら演劇を続けていたが、28歳の時に結婚を機に就職を決意。その時に選んだのが今の介護職だった。
「介護職は安定しているイメージがあったし、建築現場で一緒に働いていた人から『気遣い上手だから介護とか向いてるんじゃない?』と言われたこともありました。そして大学時代のアウトリーチ活動で、ほんの束の間でしたが介護の現場に関わり、全く知らない世界ではなかったので飛び込みやすかったことも大きかったですね。無資格・未経験で入社したので、最初は覚えることが結構あって大変でした。それでも利用者さんと話すのが楽しくて、割と早いうちから介護って面白いし、自分に向いているかもしれないと思えるようになりました」
介護の仕事に携わって約4年。俳優業で培ったパフォーマンス力は、介護の現場でも活かされている。
「施設では利用者さんに楽しんでもらえるようなレクリエーションを定期的に企画しているのですが、大勢の利用者さんの視線を浴びながら様々なプログラムを行うため、まるで舞台の上に立っているかのような気分になります。大学時代に声楽を学んでいたこともあり、月に1回僕が歌う音楽会を開催させてもらっています。毎回季節にちなんだ歌を披露したり、利用者さんのリクエストに応えてみんなで歌ったりしています。その時はやはり役者の血が騒いで、みんなを喜ばせたい、盛り上げたいという思いが強まりますね(笑)」
そんな鈴木さんのことを「先生」と呼ぶ利用者さんがいるほど、今では施設の人気者に。普段のコミュニケーションでも演劇で得た知識を活用しているそう。
「介護の現場では、利用者さんになかなか受け入れてもらえなかったり、認知症の症状がある方との会話が難しいことが多々あります。でもそんな時に相手のペースやテンポに合わせたり、声色を寄せて安心感や親近感を持ってもらうことで、信頼してもらいやすくなりました。また利用者さんと話す時には、どうしてもテンプレート的な声かけになりがちなんですが、相手の立場やシチュエーションに合わせて自分なりにオリジナリティを加えながら一人ひとりに合わせた声かけができているのも、役者の経験があったからこそ。毎日刺激を受けながら楽しく仕事ができています。また介護の現場で培ったコミュニケーション力は、舞台でセリフの掛け合いをする時や、様々な役柄を演じる上でも役立っているように感じます。両方にとってメリットがあるので、今後も介護の世界でキャリアアップしながら、休日を上手く利用して舞台に立ち、自分を表現していきたいです」
毎日舞台に立っているような
気持ちで介護を楽しんでいます。
現場スタッフの声から読み解く
介護の仕事リアル調査
介護に携わる人たちにアンケートを実施し、仕事に対する本音を聞いてみました。より知識を深めるために、介護業界に詳しい秋本可愛さんの解説付きでお届け。
アンケート協力・オンラインコミュニティSPACE(KAIGO LEADERS)、善光会、スケッター
あきもと・かあい 株式会社Blanket代表取締役。介護の力でより良い社会を目指すために、介護に志を持つ若者コミュニティ「KAIGO LEADERS」を立ち上げ、組織や地域を超えて介護の現場が繋がれる場作りを行う。
Q1 介護の仕事を選んだ理由は?
「今やコンビニより介護サービス事業所の数が多く、介護人材のニーズが高いため無資格・未経験の方や、異業種から介護の世界へ飛び込む方もいます。介護福祉士は、養成施設ルートと3年以上の実務経験+研修の実務経験ルートなどがあり、どこでも通用するので、手に職をつけて働けます」(秋本さん)
Q2 職場を選ぶ時に重視した点は?
「介護は、特別養護老人ホームなどの施設で、24時間体制でケアする入所系、デイサービスなどの通所系、自宅を訪問して必要なケアを行う訪問系、通いも宿泊も訪問もできる複合型など、様々あります。また施設や事業所によって理念や特徴も多様なため、自分に合った働き方が選べます」
Q3 介護の魅力ややりがいは?
「介護する側の行動ひとつで、利用者さんの笑顔やポジティブな変化を生み出せるため、クリエイティビティを発揮しやすい点が魅力のひとつ。資格がなくても働けますが、研修を受けたり資格を取得して知識を身につけていくと、ケアの幅が広がり、圧倒的にやりがいを感じやすくなります」
Q4 介護の大変なところは?
「体力を使うイメージがありますが、最近はICT化や、ロボットや機器の導入が進み、スタッフの負担軽減が進んできています。また、たとえば夜勤がない通所介護や訪問介護を選んだり、時短勤務で働くなどライフスタイルに合わせて柔軟な働き方ができるのも介護の仕事の特徴です」
Q5 今後の目標や夢は?
「今後介護人材のニーズは高まる一方なので、将来性の高い職業です。研修や仕事を通して、専門性やマネジメント能力を身につけることで叶えたい夢を実現できたり、自分のライフスタイルやライフステージに合わせて場所や時間を選択しながら柔軟に長く働くことができます」
Q6 どのような人が介護の現場に向いている?
「私が実際に介護の現場を見て感じることは、どんなサービス業態でも人に興味ある方、人と関わるのが好きな方は、自分らしさを表現しながら楽しく働かれている印象があります。利用者さんとだけでなく、介護スタッフと連携しながら密にコミュニケーションをとれる方は、特に重宝されます」
Q7 介護に興味を持ったら何から始めるべき?
「介護業界を深く知ってもらうために行政や民間が実施している介護現場の職場体験に参加したり、『スケッター』『タイミー』といった、介護のお仕事体験ができるマッチングサービスを活用してみるのが手! 就職する前に、現場の空気を肌で感じて、自分に向いているか知ることはとても大事です」
体験・交流イベント
「ケアするしごとツアー」開催!
様々な介護・福祉の世界を見てきた「KAIGO LEADERS」のメンバーがツアーコンダクターとなって、みなさんを介護・福祉の現場にご案内。働く現場を見たり、職員や利用者さんと交流することで、介護の世界を身近に感じることができ、さらに知識が深まるはず。参加無料。詳細や募集要項を確認したい方はQRコードをチェック。
12月14日52間の縁側
千葉県八千代市の福祉事業所。建物内に約80mの縁側があり、デイサービス・宅老所のほか、公衆浴場・カフェ・テラスといったスペースを設置するなど、多面的な機能を持つ。
1月11日あおいけあ
認知症ケアで国内外から注目を集める神奈川県藤沢市の介護事業所。利用者の自分らしさを大切にしたマニュアルのない自由な運営の下、一人ひとりの人生に向き合っている。
1月22日サンタフェガーデンヒルズ
P.2〜3でも紹介した東京都大田区の複合福祉施設。利用者の自立支援、介護者の負担軽減などを目指すため、介護ロボットやICTを活用し、未来の介護の在り方を実践。
1月25日えんがお
栃木県大田原市の福祉施設。空き家を活用して、多世代交流サロン、障がい者施設など9つの施設を運営。若者が高齢者の孤立を解消する地域の仕組み作りを行っている。
本プロジェクトは厚生労働省補助事業 令和6年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)として実施しています。(実施主体:マガジンハウス)