思想ではなく、生活苦から極に振れる危険性。
今年は世界的な選挙イヤー。近年、欧州で極右政党への支持が増しています。フランスでは、欧州議会議員選挙で極右政党の「国民連合」が議席数を伸ばしたことを受け、マクロン大統領は下院を解散しました。総選挙で中道に戻るという目論見でしたが、6月末に行われた第1回投票では「国民連合」がトップになり「極右連合」と合わせた得票率は33%を超えました。2位は極左政党の「不服従のフランス」を中心とする左派連合で得票率は約28%。マクロン大統領を支持する中道の「与党連合」は3位と大敗しました。ところが第2回投票では左派連合「新人民戦線」が議席を伸ばし、「与党連合」が2位、「国民連合」が3位に。極右に傾くことを恐れた有権者が多く投票したことが反映されました。
欧州で右派や極右が支持を得てきた背景には移民問題があります。中東やアフリカから移民や難民が大量に入ってきたことにより、自分たちの仕事が奪われ、暮らしが脅かされるのではないかという不安が広がりました。つまり、思想的な理由ではなく、生活苦が極右を押し上げているのです。これは、自国第一主義を掲げた、’21年までのトランプ政権の反グローバリズムの流れが影響していると考えられます。コロナ・パンデミックやウクライナ戦争がその流れを加速させました。
極右が台頭していますが、極左の支持も増えています。どちらにせよ極に振れることはあまり歓迎できません。違う意見を認めることができず、反発と分断が進んでしまいます。世界の平和と安定には、中道的なものを構築することが大事です。不安や不満が広がる社会では、極端な方に振れやすくなる。それを食い止めるには、国民が何に困っているのかに耳を傾けることです。また、デジタルを使い、政策により何が改善し、どれほど不満が緩和されたのか、データで検証するシステムを構築すること。そうすれば、極右極左と、世の中の空気によって流されるようなことはありません。第一次、第二次世界大戦の時のように世界が分断され、疑心暗鬼により相手を罵り合い、最終的に戦争を引き起こす悲劇が二度と起こらないよう、警戒が必要です。
ほり・じゅん ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~8:30)が放送中。
※『anan』2024年8月28日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)