朝、セロトニンをいかに分泌させるかが、夜の快眠のカギ。
「朝の行動次第で、夜の睡眠の質が変わる!」と言うのは、これまで累計6万5000人以上もの人たちの睡眠改善をサポートしてきた、スリープコーチの角谷リョウさん。
「そのワケは、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌のカギが、朝にあるからです。朝起きると、セロトニンという心の安定や脳の働きに関わる脳内ホルモンが分泌されますが、夕方になるとこれがメラトニンに変化します。メラトニンがしっかり分泌されれば、夜に自然と眠くなり、睡眠の質もアップする。つまり、朝きちんと起きてセロトニンを出すことが、夜の快眠につながるのです」
そのための工夫が“AM活動”。
「朝、布団の中でまどろんでいると、コルチゾールなど活動系ホルモンの分泌が遅れて起きたくなくなり、セロトニンの分泌も不十分に。それを防いでスッキリ起きるため、例えば朝日ではなく照明の光で目覚めるようにするなど、AM活動を見直しましょう」
見直すべきは以下の9つ。
「AM活動といっても早起きすればいいというわけではなく、6時でも10時でも、それぞれのライフスタイルに合わせて起床時間を設定すればOK。AM活動を行ってから2時間後くらいに、仕事など一日の本格的な活動を始めるというイメージです。一番大事なのは、寝る時間というより、起きる時間を固定すること。1週間ほど続ければ、そのサイクルが定着し、眠りの質も改善されるはずです」
見直し1:早寝早起きではなく、「早起き早寝」に。
AM活動の第一歩は、少し時間に余裕を持って起きること。
「セロトニンを十分に分泌させるために、朝、取り入れたい習慣がいくつかあります。それには目覚めてから仕事など本格的な活動を始めるまで、2時間くらい取っておきたいところ。今現在、朝の時間がそれ以下の人は、起床時間の見直しを。ただし、人間の体の仕組みとして、いつもより早い時間に寝るのは難しいので、早起きから始めるのが、成功の秘訣。起きる時間を30分早めるのは体にあまり負担なく、そのぶん眠くなるのも早いので、自然と早寝につながります。1週間ほどすると体が覚えるので、もっと早めたい場合は、30分刻みで前倒しに」
見直し2:目覚めには、朝日ではなく「照明」を活用。
「朝日を浴びるとセロトニンが分泌されるので、それ自体は快眠にとって有効ですが、カーテンを開けたまま寝て目覚まし代わりにするのは、やや難点が。日の光の強さは天気や季節によって違いますし、日の出の時刻も変動します。つまり、起きる時間や脳の覚醒にバラつきが出てしまうのです」
そういったことも踏まえ、おすすめなのが照明を使った目覚まし方法。寝る前の反対で、“白くて強い光”が効果的だそう。
「照明を使った子供が明確に寝起きが良くなった実験結果もあります。光がだんだん強くなる『光目覚まし時計』や、調光や調色ができるタイマー付き照明などを活用してみましょう」
見直し3:アラームの「ジリリリ!」音は今すぐチェンジ!
絶対に寝坊しないようにと、大きなベルの音で起きている人もいるのでは? でも実はそれだと体に負担が…。
「こうした頭に響くような音でビクッと起きると、目覚めるために分泌されるストレスホルモンがより多く分泌されるので、朝から体に大きな負担がかかり、日中のパフォーマンスが下がってしまいます。もっと心地よく、それでいてアラームに気づくためには、自分の好きなアップテンポの曲で目覚めるのがベスト。歌ありより、なしのほうがメンタルにはいいという実験結果もあります。でも、究極の理想は、小鳥のさえずりや波の音など、人間本来の習性に沿うような“自然音”です」
見直し4:「二度寝」は5分。最長でも20分まで。
「二度寝が気持ちいいのは相応の理由があって、それは二度寝をすると幸福を感じるβ‐エンドルフィンというホルモンが分泌されるからです。これにより、ストレスの溜まった心が癒されるということがわかっています」
二度寝にはこうしたメリットがある一方で、デメリットも。
「起床時に分泌されるコルチゾールやアドレナリンといった活動系のホルモンが、二度寝によりなかなか分泌されなくなってしまう。セロトニンの分泌も遅れるので、夜の睡眠に悪影響が。ストレス過多でどうしても二度寝をしたい場合は基本的に5分まで、最長でも20分までにとどめるようにしましょう」
見直し5:「起き抜けすぐのコーヒー」はやめよう!
カフェインの覚醒作用はよく知られているけど、寝起きのコーヒーは、その作用をムダにしているって知っていた!?
「前述したとおり、起床時には活動系のコルチゾールが分泌されます。それが1時間くらいかけて上昇し続け、その後、下降していく。コーヒーはコルチゾールを活性化させる役割がありますが、半面、人間が本来持つ覚醒機能を鈍らせてしまいます。これを加味したうえで、朝コーヒーを飲むベストなタイミングは、起きてから1時間以上経って、コルチゾールが低下していく時。すると、仕事など本格的に活動を始める時間にはまだ覚醒が継続していて、シャキッとスタートが切れるはず」
見直し6:血圧ではなく、「体温」を上げる工夫を。
目覚めの悪さには低血圧が関わっていると聞くけど…。
「医師曰く、そして私がこれまでサポートしてきたクライアントさんの例を見ても、目覚めの悪さと血圧は関連がないという説が有力です。それより注目すべきは、体温との関係。人は朝になると自然と体温が上昇しますが、その高まりとともに目が覚めてくるのです。つまり、血圧が低い人でも体温が上がれば目覚めも良くなります。この仕組みを活用するため、まずは目覚める前の室温の調節などから始めましょう。また、白湯を飲んだり、朝から湯船に浸かることなども体温アップに有効です。深部体温が上昇するため、気分よく目覚められます」
見直し7:「朝食を食べるか」は、前夜のごはんで変える。
「基本的には、朝食は食べたほうがいいと思います。腸が動くと血の巡りが促されますし、脳腸相関といって脳も動き出すなど、体に目覚めのスイッチが入るからです。朝から食欲がないという人は、胃腸に負担の少ない果物や野菜スープ、ゆで卵を食べるだけでも、午前中の調子を上げることができます」
ただ、夜食べすぎた次の朝は、調整が必要に。
「前夜にたくさん食べてしまった場合は、その時に作られたエネルギーが朝起きてすぐ使えるようになっているので、朝食を摂る必要がないんです。食べるとむしろ過剰摂取になってしまう。特に、標準より体重が重い人はなおさらです」
見直し8:「好きな習慣」は夜やらずに、朝にシフト!
エンタメ補給など趣味はゆっくり夜のお楽しみに…という人も多いと思うけど、これを朝に変えるのも快眠への道。
「朝に分泌されるセロトニンは、幸せホルモンともいわれているため、朝、自分の好きなことをやると、ますますセロトニンの分泌が促される。それが睡眠ホルモンのメラトニンに変わるので、続けるうちに睡眠の質が良くなっていきます。また、インドアの趣味だけではなく、散歩など軽い運動も有効。朝日を浴びればセロトニンの分泌が促されるからです。ただ、心身が目覚め切っていないうちから筋トレなどハードな運動をやると、ダメージが一日続く可能性があるので、控えるのが無難」
見直し9:起きて1時間以内は、「メール・SNSチェック」はしない!
「メールやSNSのチェックは、いくらそれが好きなことだったとしても起き抜けの脳には負担が大きい。起床後に分泌されるコルチゾールはストレスに対抗するホルモンでもありますが、メールやSNSのチェックで疲弊させてしまい、さらに満員電車に乗るなどしたら、いざ仕事を始める時には枯渇状態に」
では、コルチゾールを有効活用するためには?
「脳に負担を与えにくい掃除や洗い物など家事をやることで、体温を上げつつ、始業に向けてコルチゾールの温存を。AM活動のルーティンとしては、朝起きるモチベーションとして好きなことをやる、または掃除をした後に朝食を食べるのが◎」
角谷リョウさん スリープコーチ。著書に『働くあなたの快眠地図』(フォレスト出版)など。“快眠で働く人を目覚めさせる”をコンセプトに個人や企業にスリープマネジメントを行う「LIFREE」を共同創業。https://lifree.world
※『anan』2022年8月31日号より。イラスト・ユリコフ・カワヒロ 取材、文・保手濱奈美
(by anan編集部)