
映画『怪物』や『国宝』などへの出演でその演技が話題となり、いま大注目を集める15歳の黒川想矢さん。自身を“めんどくさい人”と評する彼が語る役への向き合い方と等身大のお話に注目です。
卓越した演技力と唯一無二の雰囲気で、弱冠15歳ながら多くの人を惹きつける黒川想矢さん。柔らかな笑顔で話していたかと思えば、時に考え込んだり、熱く語るなど、まっすぐに質問に答える姿が印象に残る。現在公開中の映画『この夏の星を見る』はコロナ禍の2020年、オンラインを駆使し、日本各地で同時に天体観測を行う「スターキャッチコンテスト」に挑む中高生を描いた作品。黒川さんは少し頑ななところがありつつも、優しさのある安藤真宙を演じている。

――真宙との共通点はありますか。
台本を読んだ時も、演じている時も、真宙は自分とは結構違う性格だと思っていました。どっちもシャイだけど、シャイの種類が違うというか。僕は静かというより陰キャな感じで(笑)、真宙は周りに強く当たっちゃったりするようなところがあります。このセリフ、わからないなと思うことや言いにくいと感じることも。そういう時は山元(環)監督と話して慣らしていきました。監督は現場で生まれるものをすごく大事にされていたからこそ、それができたのかなとも思います。
――今作には、コロナ禍特有の人と人との距離感が描かれています。演じる上で意識したことはありましたか?
普通の環境なら、人は仲良くなるほど距離も近くなっていきます。でも、今作の世界には一定の距離をとるソーシャルディスタンスが存在していたので、心の距離が近くなっても物理的な距離は縮まらないという状況を作る必要があって。それは、難しいというか、不思議な感覚がありました。でも、頑張って演技をして乗り越えたという感じはなくて、現場で天音さん(星乃あんな演じる真宙の同級生)と話したりして徐々に仲良くなっていく様子が、そのまま映像にも出ていたのかなと思います。
――今作の状況と同じくして、日本各地の学生を演じた皆さんとは、直接会うことなく撮影が行われましたが、完成した映画を観てどう感じましたか?
僕は東京でしたが、完成したものを観た時に、距離は離れているのに、みんなが繋がっているように感じました。“それはなぜだろう?”と考えてみたら、まず、望遠鏡を覗きながらピントを合わせて星を見るみんなの姿が、祈っているように見えて。祈るということは願いであり、願うということは希望だな、と思ったんです。つまり、同じ願いや希望を持っているというところで、みんなが繋がっていたのかなって。『この夏の星を見る』という作品には、たとえすごく暗い中にいても星を見ることで、自分の今いる場所がわかるとか、願いや希望を探すというような意味があったりするのかなとも。本当にすごく素敵なシーンだと思いました。僕はコロナ禍の時、家にいるしかなくて、時代に任せるしかなかったというか…。修学旅行とかも全部なくなってしまったからこそ、真宙たちを見て羨ましく思ったし、当時のこともいろいろと思い出しました。コロナ禍を経験した学生たちは共感できると思うので観てほしいです。
――今作は辻村深月さんの同名小説が原作です。
学校で「これについてレポートを書きなさい」と言われたり、必要に迫られないと本を読まないタイプだけど、本を読むこと自体はすごく楽しい。評論文みたいなものを読むことが多いけど、この作品はただ面白いだけではなく、すごく共感できました。ずっと忘れない作品だと思います。辻村さんの作品は、ほかに『かがみの孤城』を読んだことがあります。
歩き方や仕草で表現することをもっと大事にしたい。
――役へのアプローチはどのように行っていますか?
僕は、その人が履いている靴を想像するところから始めます。すると、その人がどういう歩き方をしていて、どういう性格で、どんな個性を持っているかということがわかるんです。…今、自分が思いついた方法みたいに言ったけど、是枝(裕和)監督から教えてもらいました(照れ笑い)。でも、本当にそうだなって。自分は顔で表現して演じるということが多くなりやすいので、歩き方や仕草をもっと大事にしていきたいです。
――その方法を取り入れてから変化はありましたか?
僕は、本当に本当に本読みが苦手で。想像力がないから、演じる人の性格や背景を想像することが難しいなと感じることが結構あったけど、履いている靴を考えるようになってから、想像することがちょっと楽になりました。
――演技のお仕事をする中で、楽しいと思う瞬間はありますか?
今作でもあったのですが、無心になれる時です。たとえば、サッカーの試合をしている時の、ただただ“勝ちたいな”という感覚、余計なことが入っていないような感覚を撮影の中で感じられた時は、すごく楽しいというか、嬉しいというか…。一番好きだし、一番のモチベーションになっています。でも、多分このままじゃよくないとも思っています。そういう瞬間が必要な時もあるけれど、感覚だけではお芝居にはならないと思うので、ちゃんと演技ができないといけない時もあるなと。無心な時と、演技をしていて楽しいと思う時の両方を、シーンで切り替えていけるようになれたらいいなと思っています。
――作品を重ねるにつれて成長や変化を感じることはありますか?
あまりなくて。これまでを振り返った時に、監督さんや俳優さんが言っていたことを思い出すことはよくあるけど、自分のことはわからないです。どの作品も、毎回、まったく違う演技だから比べられないというか。それぞれの作品の中で一つの物差しや関係性ができて、それが役になっていくというか…。だからこそ、いろいろな人に感謝ですし、それしかないです。
――先ほど是枝監督の、靴から役作りをするというお話もありましたが、ほかに記憶に残っているお話はありますか?
今年の春休みに、とある俳優さんに言われた、「寂しさが俳優を強くする」という言葉です。確かにそうだなと思ったし、すごく寂しいなと思った時に寂しいままにしておくのではなく、役で同じような気持ちになった時に思い出して重ねたり、引き出せるということなのかなと考えたりしました。その方がどういう意図や想いを持って僕にそう言ってくれたのか、本当のことはまだわからなくて探している途中です。今の僕にはまったくできないことだし、寂しさを感じながら生活をしたくないなと思っているけど、いずれ、そういうことができる俳優になりたいなと思っています。
――お話を聞いていると、物事を深く考えているように感じます。
周りの人にいろんなことを教えてもらったり、いただいたものを自分の中で考えて消化できるのはすごく嬉しいです。でも、誰かの話を受けて何かを思うのではなく、まっさらな状態で自分の中に思うことや考えるものが生まれたらいいなと思っています。多分、まだできていないので。今は、めちゃくちゃ話してますけど(笑)。
――ありがたいです! ご自身はどんな性格だと思いますか?
基本的にめんどくさい性格だと思っていて(笑)。変なところを気にしちゃうとか、変なこだわりを持っちゃうとか。たとえば、トイレットペーパーの向きが逆になっていたら、嫌だなと思ってモヤモヤするし…。撮影をしていたり、誰かと話をしている時に、自分のこだわりみたいなものにモヤモヤするのも嫌だし、それを誰かに見られて“なんでこいつモヤモヤしてるの?”と思われるのも嫌だし、そういうことも含めて、自分が全体的にめんどくさいなって思うんです。
――トイレットペーパーが逆なのは、ほとんどの人がモヤモヤすると思います。
やっぱり、嫌ですよね? よかったです!
――逆に、喜びを感じる瞬間は?
(笑顔で)テストでいい点数を取った時。やっぱり嬉しいです。あと、美味しいものを食べた時です。昨日、友だちと映画館に行った時に、バターオイルをかけて食べるポップコーンを試してみたら、すっごい美味しくて。最高ですね! めちゃくちゃ幸せでした。
――ちなみに、何の映画を観たのでしょうか?
『国宝』です。何で自分が出ている作品を観に行くんだろう…って思いましたけど(笑)。僕は、自分が撮影現場で気づかなかった美術さんのお茶目なところなどを見たり、懐かしい想いで観ていたんですけど。逆に友だちは、どういう気持ちで観ていたんだろう…。後で「あれって、どういうこと?」って聞かれたりしたけど、わかんないって答えました(笑)。
――憧れている人はいますか。
2人いて、一人は『Mr.ビーン』のローワン・アトキンソン。めちゃくちゃ好きで、“最っ高やな!”と思いながら観てます。僕は面白みがない人間なので、人を笑わせられるなんて本当にすごいな、コメディっていいなと。泣かせるより笑わせる方が難しいと思います。もう一人はリバー・フェニックスです。映画も好きだけど、オーディションに来たリバー・フェニックスさんが、たまたま写り込んでいる写真集があって、それがめちゃくちゃカッコいいんです。ボブな感じの髪型を真似したいなって思っているけど、伸ばすと切りたくなるし、切ったら伸ばしたくなっちゃって、結局、ずっと今の髪型です(笑)。ちゃんと頑張りたいです!
――ほかに、これからやってみたいことはありますか?
一つはスカイダイビングです。そして、もう一つが物語を書くこと。そのためには、“自分は何がしたいのか”を見つけなければいけないと思っていて。まだ全然見つかっていないけど、一回はやってみたいとずっと思っています。
黒川想矢さん
Profile

くろかわ・そうや 2009年12月5日生まれ、埼玉県出身。5歳の頃から芸能活動を開始。’23年公開の映画『怪物』で主人公の麦野湊を演じて話題となり、第47回日本アカデミー賞新人俳優賞、第66回ブルーリボン賞新人賞などを受賞。主人公・喜久雄の少年時代を演じた映画『国宝』が公開中。映画『アフター・ザ・クエイク』が10月3日から公開予定。
映画『この夏の星を見る』
In
コロナ禍で登校や部活動が次々と制限されるなど青春期を奪われた中高生たち。茨城の溪本亜紗(桜田ひより)は、失われた夏を取り戻すため、「スターキャッチコンテスト」の開催を決意。東京の安藤真宙(黒川想矢)、長崎・五島の佐々野円華(中野有紗)ほか、全国の学生が画面越しに繋がり空を見上げる。公開中。
写真・Nae.Jay スタイリスト・伊里瑞稀 ヘア&メイク・石松英恵 インタビュー、文・重信 綾
anan 2454号(2025年7月9日発売)より