須藤アンナ『超 すしってる』

大学入試に落ちた女子高校生、サッチャーのもとに届いた一通の手紙。それは「西東京すし養成大学」の合格通知だ。“寿司職人”ではなく“寿司”を養成とは…!? と、意表を突かれるのが須藤アンナさんの新作『超 すしってる』だ。


少女たちが目指すのは、寿司!? 不条理で可笑しな春休みの冒険

「大学4年生の初夏に、小中高大の学校生活の集大成的なものを残そうと思って書いた原稿が原型です。私の世代は高校3年生の時にコロナ禍が始まり、世界も自分もどうなっていくか分からず不安でした。あの空気感を落とし込もうと思い、2020年を舞台にしました」

春休みの間、サッチャーは同じく合格通知を受け取った親友3人と、すし養成大学学長・板ノ上真魚の指導のもと、奇妙なカリキュラムに取り組む。それにしても、なぜ寿司?

「思いついちゃったからとしか言えなくて(笑)。大学生の時に安部公房の『カンガルー・ノート』を読み、脛から突然かいわれ大根が生える話に衝撃を受けたんです。カフカやフィリップ・K・ディックも好きで、自分も不条理なものを書きたかった。ただ、学生生活の集大成なので明るい話にするつもりでした」

荒唐無稽な設定も可笑しいが、シニカルなサッチャーの一人称文体や親友たちとの軽快な会話も笑わせる。

「主人公は頭でっかちで空回りしていて自意識過剰。人によっては共感性羞恥で読み進められないと思います。ラテン語のことわざなどをよく引用するのは、彼女がいろいろ勉強している証左であると同時に、自分の言葉を持っていないことの表れです。得意なことも夢もなく、他人に対し常にコンプレックスを抱いている。かなり面倒くさい人です」

そんな彼女の心に刺さるのは、姉が見ているアニメ『輪(まわ)るピングドラム』の「きっと何者にもなれないお前たちに告げる」というセリフだ。

「このセリフも、今回の出発点のひとつでした。学生時代って、将来や進路についてひたすら考えさせられる期間でもある。大学時代はわりと自由ではありましたが、それでも自分の未来から逃れられなくて、その圧がこの言葉に集約されて聞こえてきたというのは、私の実体験です」

何者でもない少女たちは、はたして人間をやめて寿司になるのか?

「今回は“克服”をテーマにしています。安易なほうに流されて生きている人たちが、自分と向き合って折り合いをつけていく話にしたくて。現実はろくでもないけれど、でもこの楽しさがあるのは現実だけだよね、みたいなことを書きたかった」

終盤に広がる壮大な景色は、「絵コンテを描いて検尺もした」という。若い世代のリアルな不安や葛藤に共感しつつも、珍妙な展開に、肩の力が抜けて楽な気持ちになってくる。

「シリアスなことをただシリアスに書くと、シリアスを消費したい層にしか届かない。だからできるだけ多くの要素を入れて、いろんな人が気軽に読めるように意識しました。読んだ方の1%くらいは、ばかばかしさに笑って前向きになってくれたらと思っています」

Profile

須藤アンナ

すとう・あんな 2001年、東京都生まれ。2024年に「グッナイ・ナタリー・クローバー」で第37回小説すばる新人賞を受賞、翌年、同作を刊行して小説家デビュー。書き下ろしの本作が2作目となる。

information

『超 すしってる』

大学に落ちた春休み、サッチャーは親友3人とすし養成大学に通う。シャリになったり手からワサビを出したり、その末の彼女の決断は。中央公論新社 1870円

写真・中島慶子 インタビュー、文・瀧井朝世

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