ananでの連載が、多くの共感を呼んでいる最果タヒさんのコラムが、一冊の本になった。テーマとなっているのは、いわゆる“推し”。ただし最果さんは次のような理由で、その言葉を使っていない。
「単語としてわかりやすいから使う気持ちは理解できるのですが、私の応援する気持ちと一致していなかったのです。応援しているたったひとりの人に対する感情はオンリーワンのものだから、自分だけの言葉で積み上げていくように、探っていきたいと思いました。はたから見れば遊んでいるだけかもしれないのですが、同じ人を応援し続けていると、本当に人付き合いと一緒で、その人を大切に思う感情が深まってくるんです。連載していて、タイトルがどんどんしっくりくる感覚がありました」
最果さんが応援するのは「宝塚歌劇団に所属している男役さん」。公演初日が迫るある日、しばらく舞台を観られない時期、千秋楽の直後など、そのときどきの思いを詩のような数行の言葉と、1ページに収まるほどの文章で綴っている。
「この連載では、自分の気持ちが一番集中しているところを書きたいと思っていました。私がいかにこの人を好きで尊敬しているのか、冷静な説明はあえて入れず、最高速度になった瞬間の気持ちを結晶として残していきたかったんです。好きっていう感情のドキュメンタリーとして、過去とか、この先のことは関係なく、今どれだけとんでもない景色を見ているのかを、その都度書いていく感じで。こんなふうに書けるのも、連載だからだと思います」
好きな対象やジャンルが違っても、多くの人が自分のこととして読めてしまうのは、そうやって感情のコアの部分を抽出しているからこそ。一方で少し引いて読んでみると、好きな人を思うことは、自分自身と向き合うことでもあると、最果さんの誠実な愛し方は気づかせてくれる。
「応援って一方通行で、自己満足のようでもあるけれど、相手の人生において一番大切なものを受け取っているわけですよね。そのことを知って、生半可な気持ちではいけないと、ここ数年でより強く実感するようになったかもしれません。私は感情のエネルギーがとても強いタイプなので、軽く好きでいるのは満足できないんですよね(笑)。その人の表現するものを頑張って受け取ろうとするし、応援したいと思うから、そのぶんだけ相手に対しても真摯でありたいと思うのでしょうね」
書籍化にあたって、2年少々の応援の軌跡を再読したところ、思わぬ感情が押し寄せてきたそう。
「すごく恥ずかしくて、こんなこと初めてっていうくらい読み進められなかったんです。いつもは“最果タヒさんの作品”として、半分くらいは編集者の目線だったりするんですけど、この文章には“私”がいすぎて(笑)。だけどそれくらい自分の全力が残っているのだとしたら、それこそ“愛してる”そのものだし、作家人生のなかでも全然違う、宝物みたいな本になったと思っています」
Profile
最果タヒ
さいはて・たひ 詩人。1986年生まれ。2006年に現代詩手帖賞、2008年に『グッドモーニング』で中原中也賞、2024年に『恋と誤解された夕焼け』で萩原朔太郎賞を受賞。小説、エッセイ、絵本など著書多数。
information
anan 2477号(2025年12月26日発売)より
























