
さあマンガファンにとって年末の楽しい企画がやってまいりました! この冬もananマンガ大賞、開催です。編集部が選ぶ第16回の大賞は、さのさくらさんの『ただの飯フレ(メフレ)です』。
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大賞は異色の食べ物マンガ。こんな関係、羨ましい
週1回程度会って、ごはんを食べて語り合う。人との距離感や関係性に悩む時代の“新しい人との繋がり”を描いた物語。
大人世代におすすめしたいマンガを紹介する、年に1度の楽しい企画「ananマンガ大賞」。毎年1作大賞を選出しており、その選考基準は(1)ラブストーリーである、(2)現在連載中である、(3)かっこよく素敵な、恋の相手か主人公が出てくる、(4)読んだあとに前向きな気持ちになれる、の4点。その基準をもとにマンガを読んで読んで読んだ上で、今回はさのさくらさんの『ただの飯フレです』を大賞に選出しました。
マッチングアプリでの出会いが当たり前の世の中になったものの、それに疲れている人もいるはず。恋や愛から少し解き放たれた新しい関係もアリなのでは? そんな思いを込めて描かれたこの作品は、コマのあちこちから新しい人間関係のヒントをもらえる気がする、前向きな物語です。
どんな作品? 4つのポイントで解説
① アプリの出会いに疲れた“かわかわさん”、マッチングした相手に“飯フレ”を提案!!

メッセージをくれたのは金髪&長髪のヅラの男性、誘われたのはホテル街の寿司屋。「またヤリモクか」と悲しい気持ちになったが、なぜか空気が良くごはんが美味しい。別れ際の飯フレ提案で、物語が回りだす!
② 飯フレ相手は攻めた髪型の“太郎さん”。ドライな距離感が居心地良し?!

太郎さんは奇抜な髪型が印象的な男性。「人付き合いが苦手で、ごはん相手に困っている」と言い、かわかわさんのアプリにメッセージを送ってきた。でもその付かず離れずの距離感が、かわかわさんとは相性良し。
③ 登場人物がみな、それぞれの悩みを抱え、誠実に人生と向かい合う様子が胸にくる

かわかわさんと太郎さんを中心に、職場や旧友、親といったふたりを取り巻く人たちを含め、それぞれの生活や思いが描かれる。仕事、恋愛、人間関係など抱える悩みはさまざま。でも、どの事象もリアルで、共感必至。
④ ごはんの描写が美味しそう&楽しそう! 人とごはんを食べるって、嬉しい

ファミレスに行ったり、おでん、焼き鳥、餃子に唐揚げ、イタリアンやベトナム料理…。食べ物について語り合い美味しさを共有するふたりが尊い! 読んでいると、誰かとごはんを食べに行きたい衝動に駆られます。
祝・大賞受賞! さのさくら先生に、インタビュー!
受賞の感想や、作品に込めた思いをインタビューしました。謎めくふたりの行く末のヒントも…?
── まずは受賞の感想を!
すごくうれしいです。ananは友だちはもちろん親も知っている有名な雑誌なので、みんなに自慢できるぞ! という気持ちです(笑)。
── 作品が生まれた経緯は?
2~3年前、編集者と会ったり、企画を考えたり…みたいなことを積極的にしていた時期があったんです。みなさんと話をする中で、特に20代の人の“マッチングアプリでの出会いに疲れている”感がすごく強くて…。それで、今この作品を担当してくれている編集者さんと「ごはんを食べに行くだけの関係ならラクでいいのに」という話になったことが、最初のきっかけです。
── 恋人でも友だちでもない、ごはんを食べる間柄。主役のふたり自身がその関係を手探りで構築していこうとする様子が、とても愛おしいです。
この作品を描く上で私が一番大事にしているのは、“人と関わることに対して、常にポジティブでいたい”という思いです。私自身どちらかというと閉鎖的なのですが、人と関わって傷ついたとしても、その結果、別の道が見えるかもしれないから、会って話して繋がることに前向きでいたい。それが伝わったらいいなと思っています。
── 主人公の“かわかわさん”こと春川さんは、純粋でまっすぐではありつつ、揺れがある性格なのが新鮮です。
弱そうで弱くない、多くはないかもしれないけれども強さも持っている。私と編集さんにとってかわかわさんは、“こういう人、いたらいいな”という気持ちを詰め込んだ存在です。でも、マチアプで初めて会った人に「飯フレになってくれ」と突然言えちゃう人でもあるので、突飛になりすぎないように注意はしています(笑)。
── 太郎さんのほうが突飛かと思いきや、そうではないんですよね。
確かに太郎さんのほうが一見強そうに見えますが、彼は初期衝動は弱いタイプで、調和を重んじる人。だからこそ、かわかわさんの衝動的な要望を受け止めたんだと思います。
── マチアプで知り合って、食の好みも気も合う。普通だったらあっという間に恋人になりそうな関係ですよね。
マンガとかに男女キャラが出てくると、9割方“いい感じ”になるじゃないですか。別に逆張りをしたいわけではないんですが、それが当たり前なんだったら、「いい感じになっちゃわない、っていうのはダメですか?」という気持ちは若干はありますね(笑)。読者の方の感想を読んでいると、恋に発展してほしい、このままでいてほしい、半々という感じです。でも、私自身こんなに連載が長く続くのが初めてで、自分でも彼らの気持ちがどう動くのかまだわからないですね。
―― 作品を描いていて、嬉しさを感じるのはどんなときですか?
みなさんから感想をいただいたときです。おもしろかった、刺さったという一言でも嬉しいし、「自分にもこんなエピソードがあって…」とご自身の体験を送ってくれる方も結構たくさんいて、そういうレスポンスを読むのも喜びです。読者の方とのこういうやりとりは、本当に得難いというか、描き手冥利に尽きます。
── 読んでいると、他者と話をして理解し合うことの大切さを実感します。
「言っても仕方ない」みたいな気持ちって、私も含め、みんなの心にあるけれど、逆に人と関わることで得られるものも、確実にある。それはマンガ家と編集者の関係にも言えることで、話をすることで、ひとりでは考えられなかった展開やキャラクターが生まれることがあるんです。この作品を描いている自分の経験も含めて、ですが、出会いには意味があるし、意味を持たせるために話をすることが大事なんだな、と思います。
さのさんに聞く、作品への思い
「彼氏と彼女ではないけれど、二人の関係はオリジナルで特別なものだと思う」

「男女が付き合わない形でずっと関係を続けるのは、現実的には難しいかもしれない。だからこそかわかわさんと太郎さんの関係を、唯一無二にしたかった。でも本当はどの人間関係も無理に枠にはめる必要はないし、オリジナルであっていいと思うんですよね」
「ふたりをどうにかラブホに入れる、そうなるためのストーリーを編集さんと必死に考えたのはいい思い出」

「5巻ラストでふたりはラブホテルに入るのですが、かわかわさんの性格だと、自分の服が汚れたくらいでは、家に帰ればいいや、となる。どんな事件が起きたらラブホに入るくらい焦るか、いかにふたりをラブホに追い込んでいくかを考えたのが楽しかったです」
「かわかわさんのオフィスの、個性あふれる仲間の雑談シーンが生き生きと描けて楽しかった」

「5巻の、お正月休みから戻った同僚と飲み会をするシーンで、休み中のそれぞれのエピソードをわーって喋り合うんですが、それぞれ日常があって、ごはんは美味しくて、おしゃべりが楽しくて…。みんなが生き生きしている様子が描けて、なんか幸せを感じました」
Profile
さのさくら
SNSでのエッセイマンガの発表を経てマンガ家デビュー。これまでの作品に、『JKさんちのサルトルさん』(講談社)、『生真面目な夏目くんは告白ができない』(KADOKAWA)など。
information
『ただの飯フレです』
ひとりでごはんに行けない“かわかわさん”が“ごはん友だち”をアプリで募集したところ、不思議な雰囲気の“太郎さん”から連絡が。何の接点もなかった二人が、週1程度食事を共にすることに! Web「comicブースト」で連載中。毎月第1金曜日に更新。1~5巻 ¥836~/幻冬舎コミックス























