麻生みこと『脱落令嬢の結婚』1

知らない世界を覗き見るのは楽しいものだが、羨望の眼差しを向けられがちな上流階級の人たちも、いやはや悩みは尽きないようだ。


自由を得るのは脱落? 脱出? ご令嬢たちの尽きない悩み

「同族企業や政治家一族の跡継ぎをめぐるお家騒動、政略結婚などの話題を立て続けに目にする機会があったんです。一族のための駒として扱われているかのような、お金持ちのお嬢さんはどういう思いで生きているのだろうと興味がわきました」

東京にある日本屈指のお嬢様大学に通う、3人の女性が主人公なのだが、彼女たちの実家はみな“極太”。大手調味料メーカーのひとり娘で、ゆるふわ美人の安藤さんは、男関連の噂が絶えない。大物政治家の孫娘・主税(ちから)さんは、近寄りにくそうなクールビューティ。大学近くのビストロでバイトしている別所さんは、関西弁丸出しの気さくなキャラだが、やはりスーパーゼネコンの創業一族。

「今まで私のマンガには出てこなかった、性に奔放な子を描いてみたかったんです。といっても本当に嫌な子でなく、かわいげのあるような。それが安藤さんで、きれいだけど自分に自信がなく、親の言うことは大体正解だと思って生きてきた人。仲間内を大事にする縁故主義の中心で育った、福岡出身の主税さんは、こんなのおかしいと思いつつ、楽なことはたしかなので、自分の人生が家に搦め捕られることを諦めてもいる。別所さんは兄がいたおかげで、親からほったらかしで育ったのですが、それをラッキーだと思っているタイプ。ふたりと違って、スーパーポジティブな子にしようと思いました」

お金で買えるものは何不自由なく手に入るものの、人生の選択には一切の自由が許されていないように見える彼女たち。富や権力の独占、ジェンダー不平等など社会問題をさりげなく盛り込みながら、令嬢たちのやり取りはあくまでコミカル。

「安藤さんと主税さんは特に、幸せとはこういうもの、と洗脳されて育ってきたので、まだ親に反抗する術を知らないんです。その点、庶民に紛れて暮らしたい願望のある別所さんは異質ですけど、お嬢様育ちだから、そもそも価値観が全く違う。庶民側の切実な叫びも、今後はもう少し描いていきたいと思っています」

洗脳された価値観が凝縮されているのが、「家を繁栄させるためにある」と信じて疑わない結婚観なのだが、新しい世界に触れ、仲間を得た彼女たちはどう変化していくのか。

「主体性を持って生きられるようになったらいいですよね。試練や失敗を通して、それぞれが欠けているものに気づき、成長してくれたらいいなと思っています。どんなに贅沢だろうと、悩みは悩みですからね!」

Profile

麻生みこと

あそう・みこと マンガ家。1991年「TWINS」でデビュー。『そこをなんとか』『アレンとドラン』『下足痕踏んじゃいました』など著書多数。

Information

『脱落令嬢の結婚』1

日本屈指のお嬢様大学に通う、タイプの異なる3人。実家が極太で将来に不安はないが、自由もない。庶民には計り知れないご令嬢たちの苦悩を描いたコメディ。祥伝社 836円 Ⓒ麻生みこと/祥伝社

写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

anan 2472号(2025年11月19日発売)より
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No.2472掲載

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2025年11月19日発売

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認めてもらうことや受け入れてもらうことへの願望が込められている日です。しかしまだ実力が基準を満たしていないとか、価値観や意見の違いがあるとか、現実面で本人の準備ができていないなどの理由で日の目を見ない状況が暗示されています。もし健康面での不安を抱えているなら、無理せずに休養と治療を優先してください。

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