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誰にも多かれ少なかれコンプレックスはある。ただ、年齢を重ねるとともに向き合い方を学んでいくのだ。ジュアン・ジンシェン監督が描くのは、そうした術を身につける前の多感な時代。未来には大きな可能性があるのに、目の前の問題に阻まれてその事実さえも見失いがちな年頃だ。


恋と友情とコンプレックスの青春模様

1997年の台北。受験に失敗した小愛(シャオアイ)は、名門の「第一女子高校」の夜間部に進学する。夜間部でも有名進学校に通うことが大学受験に得策と考える母親の強い意向があったからだ。実際、夜間部も合格率6%の狭き門。全日制も夜間部もどちらも第一女子高校の生徒だと先生は語るものの、制服は同じでも胸の刺繍の色が違う。その事実もまた、小愛に自分たちは“ニセの第一女子”だという意識を抱かせることに。

それでも、やっぱり輝いているのが青春。第一女子では、昼と夜で同じ机を使う相手を「机友(きゆう)」と呼び、手紙やお菓子をやり取りすることもある。小愛の机友は、成績優秀でクールな敏敏(ミンミン)。ふたりはすぐに親しくなり、やがて制服を1着ずつ交換。全日制の制服を着て“本物の第一女子”になったかのような感覚を味わった小愛は、敏敏に誘われるまま一緒に出かけるようになる。そんななか、密かに恋心を抱いていた名門男子校「第一高校」の生徒・路克(ルー・クー)が、敏敏の本命であることを知ってしまう。さあ、どうする? と、王道青春映画な展開が待っているのだけれど、恋と友情の行方は、小愛のコンプレックスもあいまってリアルな痛みも伴い、観る者の心の機微も突いてくる。

そんな小愛の成長物語を彩るのが、1990年代カルチャー。小愛と敏敏が最初に交わす会話に『SLAM DUNK』やドラマ『ビーチボーイズ』の話題が登場したり、小愛の憧れの存在が、当時ハリウッドで注目の存在となっていたニコール・キッドマンだったり。あの頃を知る世代には懐かしく、今どきの若者には新鮮という、1980年代J-POP再評価みたいな感覚がここにも溢れている。小愛は、ニコールへのファンレターになら、コンプレックスでいっぱいの胸の内を素直に綴ることができるのだが、叔母が営むレンタルビデオ店の英語が得意なスタッフに代筆してもらっている。それでいいのか? と小愛には思わずツッコみたくなるけれど、こうしたコミカルなエピソードの数々が、小愛の成長に繋がっていくのもこの作品の大きな魅力だ。

同時に、これは母と娘の物語でもある。小愛は、女手ひとつで娘2人を育てる母親の倹約家ぶりにうんざりしているのだけれど、母親がなぜそこまで倹約するのか、胸の内が明かされるシーンには目頭が熱くなっちゃいます。

日本人の感覚からすると、夜間部は社会人が働きながら通うイメージだ。台湾でも当初はそうした目的のために設置されたものの、実際には小愛たちのように中学を卒業したばかりの生徒たちが多かったそう。モデルとなった学校では夜間部という制度はすでに廃止されていて、現在の大学入試のシステムも小愛たちの頃とは違う。でも、時代は変わっても、青春のしんどさもきらめきも、子供を想う親の愛も変わらない。小愛は、そんな感慨と幸せな余韻に耽らせてくれる。

Information

『ひとつの机、ふたつの制服』

監督/ジュアン・ジンシェン 脚本/シュー・フイファン、ワン・リーウェン 出演/チェン・イェンフェイ、シャン・ジエルー、チウ・イータイ、ジー・チンほか 10月31日より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。Renaissance Films Limited Ⓒ2024 All Rights Reserved.

文・杉谷伸子

anan 2469号(2025年10月29日発売)より

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