
かわじろう『あたらしいともだち かわじろう短編集』
柔らかな光が世界に注ぐ──そんな温もりと希望を感じさせるかわじろうさんのデビュー短編集。一読するなり射貫かれたマンガ好きは多いはず。通っていたマンガ教室の課題だった作品をブラッシュアップし、それらを中心に編集したのが本書だ。
カプセルトイで小さな箱庭を作る〈山本さん〉に共感してくれる同級生が現れる話「ミニチュアとベンチ」、転校先の教室になじめない〈小林さん〉が、走るのが大好きな〈久野くん〉と雨の日に一緒に帰ることになった経緯を描く「下校」、〈戸塚くん〉の内向きな自我の殻が割れる瞬間の物語「半魚人の頃」など、粒ぞろいの10編が収録されている。
「特に友達を軸にしていこうと考えたストーリーたちではないのですが、割と自分は誰かと出会ったり、それで何かが開けたりという分岐点に興味があるのだなと、いろいろ描いてから気づきました。振り返ると、これまでの僕自身も自分からグイグイいくタイプではなく、誰かから声をかけてもらったり、友達にどこかに連れ出してもらったりして、新しい発見をすることが多かったですね」
各話で描かれるのは、ありふれた日常の中に、ふいに降ってくる奇跡的な出来事だ。そこに、リアリティとファンタジーがさまざまなブレンド加減で顔を覗かせる。
「物語は、いちばん見せたいシーンから入って、逆算的に組み立てていきます。『下戸のソウルフード』という作品では、高速道路に乗っているときに車窓を流れていく暗い景色が寂しいなというのがまずあったんですね。そこを電飾とかで明るくなった車が走っていたらいいな、だったらなぜその車は高速を走っているんだろうと理由を考える。それで、亡くなったお母さんとの思い出という流れが浮かんできました」
「よりみち」は散歩の楽しさがわからない〈セバス〉がスケートボードを始めるお話。
「これが最初に描いたマンガですね。僕も親友に誘われてスケボーに夢中だった時期があるんです。川べりの道路を走っていたときに、川の反射がキレイで、何の邪魔もない一本道をスケボーで走っていると別世界に迷い込んだ気分で、あのときの肯定感や没入感が描けたらと」
マンガの原体験は、家にあったお父さんの昭和マンガコレクション。藤子不二雄や赤塚不二夫などはかわじろうさんも好きだという。
「自分が描く線も、結構丸っぽくて。影響を受けていると思います」
Profile
かわじろう
1992年生まれ。マンガ家。2023年に「小学館 第93回新人コミック大賞〈青年部門〉」の大賞受賞。同年に、Webマンガメディア「SHURO」にて本格デビュー。
Information
『あたらしいともだち かわじろう短編集』
ファンタジーや怪異譚、フェイクドキュメンタリー風とバラエティ豊かな作品群にうっとり。知られざる美しい伝記のような「フォトグラファー」は必読。990円(マガジンハウス刊)
anan 2469号(2025年10月29日発売)より





























