梨木香歩 原作 近藤ようこ 漫画 『家守綺譚』上・下

売れない文筆家の綿貫征四郎は、学生時代に亡くなった親友・高堂(こうどう)の実家の“家守”となる。移ろいゆく四季や不思議な出来事、草木や生き物との関わりを、彼が淡々と受け入れていくさまを描く人気小説『家守綺譚』が持つ空気感をそのままに、近藤ようこさんがコミカライズ。


梨木香歩の傑作小説を、作中の雰囲気を活かしたまま漫画に

「小説の良さは読者ひとりひとりがその世界観を自由に想像できるところなので、私は漫画にするときも、なるべく原作の文体のリズムというか、私が読んだときのなんですけれど、それを再現するように意識しています。坂口安吾や夏目漱石の作品も漫画化していますが、こうしたらわかりやすくなるとか自分独自の解釈もあまり挟まないようにしますね。原作の舞台である100年くらい前なら、ここに出てくる不可思議なことも無理に理屈をつけずに、日常の地続きとして懐深く受け止める土壌があるかもしれない。夢と現の混じり合う物語を、梨木さんの原作をお借りして描けてよかったです」

綿貫は、時折掛け軸の向こうから訪ねてくる高堂と他愛ないおしゃべりをし、家に居着いた犬のゴローは近隣の動物たちの仲介役として活躍している。隣家のおかみさんに食べ物をおすそわけしてもらったり、庭のサルスベリに懸想されたり、河童の抜け殻を拾ったりと、綿貫の生活はそれなりに忙しい。

「脳裏に浮かんだものをわりと素直にスケッチする感じでできたキャラクターや風景描写です。綿貫は、多くの人が持っているだろう昔の貧乏書生のイメージなんですが、まじめかと思えば抜けたところもあって、面白いキャラです。高堂は子供の頃から早熟で、いろいろなことを考えるような子だったんだろうなと。それで、ボート部なんだけれど細身の文学青年風になりました。綿貫が暮らす日本家屋については、私も原作を読んだときにいろいろ想像していたのですが、梨木さんから実際に間取り図を送っていただいて、それは描く上でありがたかったです」

各エピソードは短いので、ススキを見かけたらススキの章、桜の季節には桜の章、と四季に合わせて読み返すのも一興かもしれない。

「東日本大震災の後、一時期、オリジナルを描くのが難しい、というか苦しくなった時期があって。そのときに原作があるものを漫画にすることを始めたら存外に楽しかった。私はこういうのも得意なのかも、と自分でも思いました。ただ、漫画だけではなく、併せて原作も読んで楽しんでいただきたいと思いますね」

Profile

近藤ようこ

こんどう・ようこ 1957年、新潟県生まれ。大学在学中に漫画家デビュー。文芸作品の漫画化も多く、津原泰水原作『五色の舟』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞。

Information

梨木香歩 原作 近藤ようこ 漫画 『家守綺譚』上・下

『家守綺譚』完結記念 近藤ようこ個展「開く閉じる」 東京・南青山のビリケンギャラリーにて、10月4日(土)~19日(日)に開催予定。新潮社 上巻1870円、下巻1815円 Ⓒ近藤ようこ/新潮社

写真・中島慶子(本) 土佐麻理子(近藤さん) インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2465号(2025年10月1日発売)より

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