「聖地」という言葉は、宗教的な意味を超えて、今では映画や漫画、アニメなどの舞台として描かれ、特別な物語を帯びるようになった場所をも指している。その意味では、日本画にも同じように「聖地」が存在する。傑作と称される一枚の絵に切り取られた一瞬や、情景をもたらした場所が多くの場合、実在しているからだ。日本画の専門美術館・山種美術館では以前、作品の画題となった土地や画家と縁の深い場所を「聖地」に喩え、作品と現地の写真を並べて展示する試みが話題に。この秋、第2弾が開催されるが、こうした展示のねらいはどこに?


名作に描かれた「聖地」と実際の写真を並べてみたら?

「作品と写真を共に展示することで、画家が正確に写した部分と工夫を凝らして描いた部分が見えてきます。例えば、速水御舟(ぎょしゅう)《名樹散椿(めいじゅちりつばき)》[重要文化財]は幹や花の質感はリアルですが、花の大きさを実際よりも大きく表現することで華やかな画面になっています。また、金地を切り取るような構成はデザイン的で、こういった部分に御舟の個性が出ています。これは現地の様子と比較するとより明確に見えてくるもので、こうした作品の新しい一面を見つけられることが本展のおもしろい点です」

と学芸員の髙島千広さん。例に挙がった椿は京都の寺院に現在、DNAを受け継いだ二世の木が植えられている。そのほか景勝地として名高い渓流をとらえた作品など、実際の場所を描いた名作の数々が登場する。

「第2弾の今回は海外の“聖地”も取り上げているので、旅行気分を味わってもらえたらうれしいです」

ピラミッドや霧に包まれるロンドンの橋など、日本画の画材や技法を用いて描かれる海外の風景には、不思議な透明感が。また同館の所蔵となって初展示となる山口晃《東京圖ず1・0・4輪之段》にも注目を。緻密に描かれた巨大都市の俯瞰図と写真とを見比べながら、作家の目と筆を通し、現実と絵画の間でどんな変換が起きたのかを見つけてほしい。

山口晃《東京圖 1・0・4輪之段》(部分) 2018-25(平成30-令和7)年 カンヴァス・彩色 山種美術館[東京都] 撮影:宮島径 ⒸYAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art Gallery

斜め上から俯瞰する視点で描き出した現代の東京。2019年放送のNHK大河ドラマのオープニングのタイトルバックに登場した。

美しき四季がめぐる古都は永遠の「聖地」

東山魁夷《秋彩》 1986(昭和61)年 紙本・彩色 山種美術館[京都府]

速水御舟《名樹散椿》【重要文化財】 1929(昭和4)年 紙本金地・彩色 山種美術館[京都府]

重要文化財の《名樹散椿》をはじめ、東山魁夷が京都の四季を描いたシリーズ「京洛四季」(《春静》《緑潤う》《秋彩》《年暮る》)など、同館屈指の名品が集結。《名樹散椿》は「椿寺」の名で親しまれる京都・地蔵院の本堂前の「五色八重散椿」を描いたとされる。

エジプト、イギリス、中国…世界の「聖地」を旅するように

千住博《ピラミッド「遺跡」》 1988(昭和63)年 紙本・彩色 山種美術館[エジプト]

スケールの大きな画題で知られる千住博の描く青空の下のピラミッド。平山郁夫《ロンドン霧のタワァ・ブリッジ》も展示。

Information

特別展 日本画聖地巡礼2025 ―速水御舟、東山魁夷から山口晃まで―

山種美術館 東京都渋谷区広尾3-12-36 10月4日(土)~11月30日(日)10時~17時(入館は16時30分まで) 月曜(10/13、11/3・24は開館)、10/14、11/4・25休 一般1400円ほか TEL. 050-5541-8600(ハローダイヤル)

取材、文・松本あかね

anan 2465号(2025年10月1日発売)より

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