意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「地雷廃絶」です。


オタワ条約から脱退の流れも。歯止めをかけねば

3月末、ミャンマー中部の古都マンダレー近郊でM7.7の地震が発生しました。6月に震源に近いザガインに取材に行きましたが、水道の復旧が遅れており、医療機関が機能しておらず、深刻な状況が続いていました。ミャンマーは地震直後も内戦が続いていて、医療用テントでは対応できないほどの深刻な怪我で運び込まれる人たちがいました。地雷やブービートラップ(仕掛け罠)の被害によるものです。

地雷は、命は助かっても手足が吹き飛んでしまう。本人はもちろん、周囲にも戦意を喪失させる非人道兵器です。

1997年には、「対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約」=通称「オタワ条約」が締結されました。地雷の除去や被害者支援を進めることが決められており、現在世界で160以上の国や地域が署名し批准しています。オタワ条約では、2025年までに地雷の廃棄や撤去を完遂させる「地雷ゼロ2025」キャンペーンを掲げていましたが、現在、58の国と地域が地雷に汚染されていますし、内戦や戦闘により地雷被害が再び増加傾向にあり、6000万人を超える人々が危険に晒されています。

6月にはウクライナのゼレンスキー大統領がオタワ条約脱退に向けた大統領令に署名しました。条約に加盟していないロシアの地雷戦術に対抗するためです。フィンランドやポーランド、バルト三国も今年脱退を表明しており、目標とは逆行しているんですね。

地雷は戦闘が終わった後も残り、一般市民が被害に遭うリスクがあります。NGO「地雷廃絶日本キャンペーン」は、地雷とクラスター爆弾の廃絶を目指し、啓蒙活動だけでなく、地雷被害に遭った人たちの支援をしており、義足を届けたり、教育支援や職業訓練も行っています。ただ、内戦状態のミャンマーには2021年から入国することができず、タイ国境で必要な物資やお金を受け渡ししているそうです。

12月には日本がオタワ条約の第22回締約国会議の議長になります。増え続ける戦争や紛争、それによる地雷設置が増える現状に歯止めをかけるためにも、地雷廃絶の声をもっと上げていく必要があります。

五月女ケイ子解読員から一言
こっそり埋めてダメージは与えるのに殺さないで戦意喪失させる。しかも一般人を巻き込むなんて、地雷って本当に非人道的な武器ですね。近頃はドローンを使って駆除する方法も開発されているそうですが、今のペースだと100年以上かかるそうです。

解説員

Profile

堀 潤

ほり・じゅん ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『堀潤 Live Junction』(TOKYO MX月~金曜18:00~19:00)が放送中。新刊『災害とデマ』(集英社)が発売中。

解読員

Profile

五月女ケイ子

そおとめ・けいこ イラストレーター。楽しいグッズが買える、五月女百貨店が好評。細川徹との共著、ゆるくておバカな昔ばなし『桃太郎、エステへ行く』(東京ニュース通信社)が発売中。

写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

anan 2464号(2025年9月24日発売)より

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